表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

episode9 諸対面・中



――何してんだ、アイツ。

 とりあえず、一回は連絡を入れようと履歴を開いた時だ。


   チリン


 不意に足元から響いた鈴の音に、反射的に目を落とす。

「……猫?」

 何の変哲もない、どこにでもいる三毛猫だ。青い首輪には鈴、そして、小さな金属の箱が引っかかっている。

「…………」

 猫はともかく、箱が気になる。雑な溶接といい、わずかな機械音といい――怪しい。

 確認しようと手を伸ばした、が。

「だぁぁあああッ、いたぞッ」

 突然のだみ声が響いた瞬間、怪しい猫は驚くほど素早く身をひるがえし、目の前の角へと消え去った。

「あっ、くそ、待てぇッ!」

 すぐに、凄まじい形相を作った5人の警官が、揃って追うように角を曲がっていく。

 なんだったんだ。

 顔と制服を見るかぎり、確か交通課の奴らだったと思うが……猫まで取り締まるつもりか?


「猫ー、ねーこー?」

「あの畜生め、何処だ……ッ」

「ミケちゃーん!」


 よく見ると署内のそこらかしこで、この"猫捜し"は見つけられる。しかも、そいつらの所属には共通点が見つからなかった。

「少しいいか」

「へ、俺ですか?」

 声をかけると、一番近くで"ねこじゃらし"を振り回している若い警官が振り向き、俺を見るなり目を輝かせた。

「うわっ、来島刑事じゃないっスか! 退院したんスね!」

 思わず眉をひそめる。名乗った覚えどころか面識もないが、俺のことは知っているらしい。

「あっ、スイマセン。いや、来島刑事と平瀬刑事、近頃ちょっと有名なんス。『玄庭』の件で"あの"鷹鮠サンを"ぎゃふん"と言わせたっつーことで! いや、人気ないっスから、あの人」

「……そうか」

 ヘラヘラと笑いながら聞きもしないことを喋り続ける。"あの"平瀬よりも、相当軽そうな奴だ。

 この調子なら、簡単に聞き出せる。

「他の奴らも猫を捜してるらしいが、何かあるのか。あの猫」

「あ、猫ってか"箱"っスね。金属の」

「箱……危険物か」

「そういや、刑事は何も知らないスもんね! 最近けっこう騒がれてんスけど」

「…………」

 間違ってはいない、が、"慇懃無礼"ってのはこういう奴のことかもしれない。ヘラヘラした態度がイラつかせてくれる。

――鳥声よりは、マシか。

 感情が表に出たのか、ソイツは俺の顔色をうかがうなり青くなった。

「あれ、なんか、怒ってたりしてるっスか……?」

「……説明してもらうぞ」

「お、おッス! あれ、実は――――」





「『爆破テロ』……みたいなものかな。小規模の。そんな訳で、手伝ってほしいんだ」


 突然目の前に現れた"その人"の手には、それぞれ、警察手帳と白い猫。

「……あれ、大丈夫? 猫、ダメだったのかな?」

 ぽかんとしている僕に、彼はにこりと笑いかけてくる。

「……あ、あの」

「何?」

「……どちらさま、ですか?」

 ようやくしぼり出した質問も、どこか間抜けたものになってしまった。

 "その人"は、一瞬の間の後、勢いよく吹き出した。

「っあはは! ごめんごめん! いきなりすぎたね。見てのとおり、ただの警察官さ」

「"見てのとおり"、ですか……?」

 僕は驚いて"その人"を見る。けど、警察手帳以外、それっぽいものが見当たらない。むしろ、お洒落なサラリーマンみたいだ。

 身長はそんなに高くない。僕よりちょっと低いくらい。

 ふわりとしたクセのある茶髪に、太めの眉。優しそうな顔立ちだ。グレーのスーツもかっこよく着こなしている。

 鳥声刑事くらい目立つ感じの人なのに、ぜんぜん署で見た覚えがないのも不思議だ。

「あ、見えない? よく言われるけどね」

「す、すみませんッ、失礼なことを……!」

「いいよ。で、最初に言った"手伝ってほしいこと"なんだけど」

 そういいながら、"その人"は猫を離し、僕に笑いかける。

 猫はあっという間に白い点になって消えた。

「簡単なことでね? 今からその犯人達のところに殴り込むから、『どちらが先に手を出したか』"証言"してほしいんだ」

「は、はい。…………って、"どこ"に"何を"っていいました!?」

 物騒な言葉に危機感がつのる。優しそうな人だけど、何となく裏がありそうな……ついていったら無傷じゃすまなさそうな……。

「"テロ実行犯の巣"に"殴り込み"って言ったろ? じゃ、行こうか」

――って、すでに腕ひっぱられてるうえに力強いッ!?

「ちょっ……待っ、そういう手伝いなら他のっ、格闘が強い人のがいいんじゃ!?」

「大丈夫。君は喧嘩しなくていいし、おとなしくしてれば怪我はしないはずさ」

「怪我っ……なら余計、警察官の増援を連れていった方がいいですよ! 一人なんて無茶ですってッ!!」

「…………ふぅ、ん」

 "その人"が歩きながら振り返る。その顔には、見た目からは意外なほど不敵な笑みが浮かんでいた。

「面白い子と組んだね、彼」

「へ……?」

「心配せずに、僕が一回殴られたら、あとは目も耳もふさいでて」

 それだけ言うと、どんどん歩いて行ってしまう。

 僕より一回り小さなはずの背中。なのに一瞬、刑事について行ってるような錯覚がした。


 なんでだろう――?

 いや、そんなことよりも……。


「け、刑事……、助けてくださいぃ〜……!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ