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episode9 諸対面・上


※視点が突然変わります。

何度もすみません。


警察側視点で

<side来島>→<side平瀬>

となります。





 暑い。熔けそうだ。


 俺はにじむ汗を拭い、おおよそ2週間は行っていなかった職場へと歩く。

 もう7月に入っている。都市特有の暑さと湿気が、心なしか凶暴さを見せはじめたらしい。



 退院から復帰への手続きは、意外なほど手早く済んだ。好都合といえばそうだが、ここにも例の"上司"が少なからず絡んでいるんだろう。

 試しに新聞やインターネットなどの情報も集めてみたが、やはり、『玄庭』についての記事はさほど取り上げられていない。


 無論、"シモン"の名前も一切掲示されていなかった。



「あ〜っ! そっこに見えるのは"来島ちょん"じゃないか! まだ6時だよー、病み上がりなのに早いねェ」

「…………原さん、か」

「そんなにあからさまに、『げっ』て顔されると傷つくなぁー」

 幅の広い体を揺らし、俺の倍の汗をかきながら苦笑する。

 職場にはすぐ着くとはいえ、誰かと並び歩いて通勤するのは好きじゃない。それは相手が平瀬でも、このメタボ上司でも同じことだ。

「あれ、来島ちょんなんか痩せちゃった?」

「……アンタはさらに肥えたな」

「アイス食べまくったからネ。でもソレそのまま言うかなー、普通」

「…………暑い」

「え、スルー? 上司を大切にしようよ、もうちょっと。君がいない間、ダレが未成年事故とか整理したと思ってるのかな?」

「アンタじゃないことは確かだ。あと喋んな……暑苦しい」

 警察署の、薄汚れた白い壁が視界に入った。

 二重の自動ドアをくぐり、ある程度だがクーラーの効いた室内に入ると、少しは安心する。

「……どうせ、またアンタの直轄なんだろ」

「ふぅ〜、あ、わかった? ホントは、ボスはもう一つ分偉い人だけどね」

 『ボス』――物騒な響きの言葉にひっかかる。眉をしかめて原さんを見やると、ニヤニヤしながら俺を見ている。

「気になるみたいだね〜」

「……別に。そのウザい面をやめやが……やめてください」「ふっふっふ。新しい上司は少し遅れるんだって。平瀬くんと一緒に、先に分室に行くといいよ〜」

「…………」

「じゃあ、僕はお仕事お仕事」

 原さんはふくれた招き猫のような顔で笑うと、俺の肩を一度叩いて歩いていった。


 メタボの割にしっかりした歩きの後ろ姿を見送った後、俺は携帯を開いた。

「…………ん?」

 着信が、1、2――7件。

 しかもその全てが、今から連絡しようとしてた奴だった。






「刑事、まだかな……」

 僕は小さくつぶやいて、正面の通りを眺める。

 朝5時40分。出勤には少し早すぎるけど、刑事の職場復帰が待ちきれなくて飛び出して来てしまった。

 次々にやってくる先輩方に挨拶しながら(不審そうに見られた……。)、密かにため息をついた。

 先に集合場所に行ってみる、というわけにもいかない。


――1人で行って、もしその"カンナ警視"が待ち伏せしてたらどうしよう……。


 刑事のお知り合いで、あの鷹鮠警視よりも偉い人なのた。すごく恐い人かもしれないし、この前の単独行動を怒られてしまうかもしれない。

 そんなときに刑事がいないのはとても心細い。

「……あれ?」

 そういえば、"カンナ警視"って男性だろうか? 女性の名前でも、ありえるかもしれない。


――女性といえば……鳥声さんはびっくりしたなぁ。


 自分のすぐ目の前で、たおやかな"女性"から鋭利な"男性"へと変貌をとげた、銀色の髪の美男子。それだけでも信じられないような人なのに。

 そんな人とこれから一緒に仕事をするんだと思うと、ちょっと緊張するかもしれない。



「あの、もし……」

「はいッ?」

 突然の声に飛び上がると、小柄で上品そうなおばあちゃんが、申し訳なさそうに僕を見ていた。

「警官さん? 道を尋ねてもいいかしらねぇ」

「あ、はい、わかりました。どこへ行くんですか?」

「えぇっと……あれは、何て言うのだったかしらねぇ……、そうだ、郵便局だわ」

「それなら、この道をまっすぐ行って、あのラーメン屋さんの角を右に曲がって真っすぐ行くと大きい通りに入ります。そうしたら左に行って、サーク○Kを越えたあたりにあるはずです」

「ええっと……ラーメン屋さんを左……」

「あ、右です」

「そうそう、右ね。……あと、なんだったかしら」

「え、えっと」

 僕は腕時計に目を走らせる。刑事の出勤まで、まだ時間がありそうだ。

 大丈夫、帰ってこれる。本当は駐在さんとかのお仕事だけど、警察官として放っておくわけにはいかない。

「あの、よければ、僕が道案内します」

「あら、そう? 助かるわ……ありがとうねぇ」

「いえいえ。こっちです!」






――間に合わなかったぁあっ!!


 結局、そのおばあちゃんは、行きたい所が"郵便局"なのか"銀行"なのか"市役所"なのかも曖昧だったみたいだ。

 結局、なんとかして思い出してもらって、おばあちゃんの歩みに合わせて連れていったのだけど。

 6時……かなり過ぎちゃいました。


――どうしよう……刑事なら、もう着いてるかもしれない……!


 とにかく急いで刑事の携帯にかけるけど、いっこうにつながらない。7回であきらめてしまった。


――と、とにかく急いで向かわないと……!

 そう思って、まだ人の少ない通りを走り出した。





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