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▽Prologue 同志信仰


※誤字、脱字あったらごめんなさい。

現実の組織、団体、事実とは一切関係ありません。

良作とも一切関係ありません。



 これは、彼がまだ刑事になりたての時の話らしい。



 甲高いブレーキ音。爆走するトラックとパトカー。


『止まりなさい! 無駄な抵抗は止めなさいッ!』


 スピーカーから発せられる声など聴こえないかのように、その怪しいトラックは走り続けていた。


「くそッ、民間人までまきこみやがって……!」

 助手席に座る警察官が、一般車をギリギリで避けて走るトラックを睨みつけた。

「なぁ、おかしく、はッ、ないか!」

 ドライブテクを駆使しながら、運転手の警察官も叫ぶ。

「何がだ!?」

「逃げ方が派手過ぎる!」

「はぁ!?」

「『物』が『物』だ、人目に付くのは奴らもさけたいはずだ! 壁の爆破といい、まるで俺達を誘導してるような……」

「だ、だけど」

 言い淀んで、助手席の警察官は唇を噛んだ。

「……上司命令、だ。あのトラックを追えと……」

 運転手の警察官が舌打ちをする。

「クソ……どこいったんだ、刑事は……ッ!」




 ヘリが飛び、マスコミのカメラも首都高速の追跡劇を追っている最中、ひっそりと事は運ばれていた。

 どこかの橋の下、人目にまったく付かない、暗い場所で。

「おい、『ブツ』はどうした」

 カジュアルなワイシャツにジーンズ、それに黒スーツを羽織った奇抜な恰好の男が、葉巻を吸いながら尋ねる。ブロンドの髪に碧眼、30歳を越えない見た目だが、背負う気配は黒々としている。

「こ、こいつだよ……!」

 男に答えたのは、見るからに極道のチンピラである、若い男だ。数人のそんな男達は、肩を震わせながら、男のもとに『ブツ』を運んだ。

 筒状の、ボストンバッグ程の大きさのそれを、ゆっくりと地面に降ろす。

「や、や、約束だぜ、"クロコ"! か、頭は生きたまま返してくれよ!」

「あぁ……よくやってくれたよ、アンタ等な」

 "クロコ"と呼ばれた奇抜な男は、自分の後ろに待機させた車両を振り向いた。

 首都高速を走るものと、ナンバープレートまで似せたトラック。その荷台には、一台の白い軽自動車が乗せられている。

「"身代わり君"には悪いことしたなぁ……」

「お、おいッ! アイツの身柄も保証してくれるって……」

「お頭さん助けるために体張っちゃって……ククッ」

 口端をニィ、と上げる"クロコ"に、チンピラ達は戦慄を覚えた。

「テメェ……ま、まさか……」

「いんや、約束は守るさ。大事なお頭さんは返すよ。何も知らないんだし」

 と、不意に"クロコ"は、『ブツ』のそばにしゃがみ込んだ。

「にしても、ちっとも動かないな、コレ……死んでたら意味ないんだけど?」

「こ、殺すか"こんなもん"ッ! 目覚め悪くなるだろが!」

「うん、なんでも殺すと目覚め、悪くなるよね」

 "クロコ"は立ち上がると、長々しいため息をついた。

「ホンット、目覚め悪くなるのにね」

 次の瞬間、一般人の服装をした銃を持つ集団が、彼らを囲んだ。

 全員、明らかに一般人にはない、人殺しに慣れた空気を背負っていた。

「て、テメェッ! やっぱり裏切りやがった……!」

 チンピラ達がおののく様を冷めた目つきで一瞥する、"クロコ"に罪悪感の色はない。

「嘘は言ってないだろ? 『頭は返す』『身代わり君の身柄は約束する』……だけど、アンタ等は知りすぎたからねぇ……。フランシスカちゃん、やっちゃって?」

 "クロコ"の合図で、金髪の女性が左腕を上げた。安全装置を外すおとが、橋に反響して良く響く。

 チンピラ達が、何もかもを諦め膝をついた。




「……なぁ、刑事の噂、知ってるか?」

 助手席の警察官が不意に呟くが、運転手は気付かない。

「あの人は刑事になってから一年もしてないだろ。学院から飛び級で就任してからの、あの人の担当した事件、高レベルなものばかりだ……」

 話ながら彼は、目の前のトラックを見つめる。

「刑事は最初の誘拐事件……犯人の罠、フェイク、次の行動まで読み取っちまったんだってよ」




「邪魔だ」

 何もかも諦めた次の瞬間、コンクリートの壁まで投げつけられ、全てのチンピラ達は気を失う。

 ゴォン、という鈍い音が、橋に反響して良く響く。

「ん? ……誰だぁ、アンタ」

 "クロコ"が不審げに視線をはしらせると、既に円形の部隊は"半円型"になっていた。

 突然現れた、まだ幼さの残るような顔立ちの青年は、堂々とその半円の真ん中に立つ。足元にはたくさんの倒れた人間が転がる。

 青年は、向けられた無数の銃口に臆する様子もなく、懐から黒い手帳を出して"クロコ"に突き付けた。

「警察だ。あんまり手をかけさせるなよ、犯罪者」

「警察……? へぇ、若いね」

 確かに、その短い黒髪の青年は、若すぎて警察関係者には見えない。

 ただ、闘志だけが目に見えるように感じられた。

「この場所に着いたのもだし、今どきの警察ちゃんにしては感心な熱意だよ」

「黙れ犯罪者。その足元の『物』、返してもらう」

「これが何なのか、"上"から聞いてねぇんだろ? 単独だし、危ないぜ? バンビーノ(少年)」

「関係あるか、カス」

 警察のわりに口が悪い、と"クロコ"はつぶやいた。




「な、なんだと……」

 ガードレールにぶつかり、停止したトラックを調べ、二人の警察官は愕然とした。

 荷台はもぬけの殻だ。

「オイ、コイツの様子もおかしいぞ……?」

 トラックの運転手は、泣きながら運転席に丸まっている。取り調べに応じるのも難しそうだ。

 続々と他の警察官や、マスコミが集まるなか、二人は目を見合わせた。

「こ、これじゃ……」

「やっぱり、刑事の……」

「どいてくださぁ〜〜いッ!」

 と、一人の青年が二人を押しのけ、現場を見回した。

「あっ、コラ、新人ッ!」

「ってか、いたのか。平瀬(ヒラセ)

 呆れた目の警察官達にも構わずに、平瀬と呼ばれた青年は現場を見回した。

「……すごい。すごくスゴく凄いです…………ッ」

「お前、研修生だもんな。現場見るのは初めてか。まぁ、俺も最初は……」

「やだなぁ、刑事ですよッ!」

 大きな身振りで振り返り、平瀬はキラキラした目で先輩二人を見た。

「この状態、刑事が想定した通りっすよね!?」

 二人はハッとし、平瀬は、どこにいるのかわからない"憧れ"を思い描いた。

「カッコイイなぁ……

来島 忍(キジマ シノブ)刑事……ッ!」




「……ぐぅぅ……ッ」

 若い刑事……来島の蹴りは、確かに"クロコ"のみぞおちに入った。

「見かけ倒しかよ、犯罪者」

「……見かけに似合わず、怖いねぇ……ッアンタ……」

 "クロコ"は内心驚いていた。こんな人材が警察にいたなんて、調べにはなかった。

「警察ってより、ヤクザかヤンキーの戦い方だよな、コレ……」

「黙れ、手抜き三文役者」

「…………そこまでわかるか。気に入ったよ」

"クロコ"は心底楽しそうにニヤリと笑い、呻きながらはいつくばる仲間を見る。

「オマエ等、引き上げっぞ」

「逃がすと思うかコラ

「あぁ……そぉらよッ」

 突如、"クロコ"が足元の袋を持ち上げ……来島の頭上に投げ飛ばした。

「なッ!?」

 勢いをつけて落ちてくる袋を、体を張って抱き留め、辺りを見回す。

「逃げやがった……か」

 そこに残ったのは、空のトラックだけ。

 "クロコ"達の姿は、掻き消したようにいない。

 舌打ちをし、その袋を体から退かし……退かそうとした。だが、袋の中の感触に固まったのだ。

 柔らかい。

 生き物……いや、人間の子供……?

「……人身売買とは、酔狂じゃねぇか」

 上からの命令、無し。

 しかし、興味、有り。

 来島は、袋の口に手をかけた……。




「おぉい、チミ達〜」

 興奮した新人を押しのけ、固まる二人の警察官に声をかけたのは、恰幅のいい中年の男だった。

「あ……原 警部!」

「何故ここに?」

 原は、ハゲた額の汗を拭きつつ、ヘラリと笑った。

「いやね、来島に話あるんだけどね、知らない?」

「い、いえ! お一人でどこかに行ってしまわれました」

「そう? 困ったなぁ……きっと、彼ならもう奪い返しちゃってるよね、"シモン"」

「は……指紋ですか?」

「ううん、『ブツ』の名前だってさ。発音ちがうでしょ。"シ"にアクセントつくの。取り扱いが大変みたいだからね、伝えないとね」

「……あの、"シモン"とは、何なのですか?」

 片方の警察官が聞くと、原は困った顔をした。

「聞いた話だとね、"子供"なんだってさ、国家を揺るがすかもしれないほど、"天才"のね」




 まず現れたのは、黒くて長い髪だった。子供特有のツヤはあるが、切られてはいないらしく、その小さな頭を覆い隠している。

 そして、ふたつめに目についたのは、……包帯の白。

「なんだ……こいつ」

 来島が、その小さな体を取り出したとき、その子の両腕は胴体にまとめられ、その両足まで完全に包帯で巻き留められていた。まるでミイラだ。

「……いや、拘束か?」

 独り言を言うと、聞こえたのか、僅かに身じろぎをするようだ。

「…………」

 包帯を解くのは危険かもしれない。しかし、こんな小さな子供に……。

 そんな葛藤をしていると、ぱっちりとした瞳と目があった。

「……よぉ、無事か」

「…………?」

 ひょこっと幼く首を傾げる仕種を見て、迷いは消えた。

 包帯を解いていく。

 下は、11月にはそぐわない薄手で藍色のワンピース。全体的に、異常に細い。女の子だ。

「……なんか喋れよ」

「…………」

「いくつだ?」

「…………れ」

「あぁ?」

 少女は、何の感情も込めずに、来島を見つめている。

「だれ」

「俺か? 来島 忍。刑事だ。お前を奪還しに来た」

「けいじ? だっかん?」

「難しいか? ようはお前を家に返す……」

「いや」

 少女は急に叫ぶように言い、来島の腕を振り払った。

 しかし、その反動でフラフラと座り込んでしまう。

「おい……」

 来島が再び手を伸ばそうとすると、携帯がなった。

「チッ……来島です」

『あ、舌打ち。来島? 原だけど、"シモン"見つけた?』

「『ブツ』なら確保しました。……"シモン"てコイツの名前ですか?」

『うん』

「人間なら先に言いやがってくださいよ」

『相変わらず口悪いなぁ。あとね、ソレちょっと頼める? 1時間くらいさ、公園とか喫茶店かなんかで』

「…………は?」

『経費から落としていいゾ☆』

「殺されたいかオッサン……すみません」

『うん、聞かなかったことにするから、頼めるよね?』

「………………はい」

『はい、じゃ〜ね』


 ブツン、ツーツーツー……。


 携帯をしまいながら、「ガキ苦手だってのに……」と、俯いたままの少女"シモン"に目をやる来島だった。






 かくして少女は始動(シドウ)し、青年は滑動(カツドウ)するための坂をのぼりはじめた。




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