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『炯眼(けいがん)の馬医 ―異世界朝鮮・泥中に咲く龍の譜―』   作者: 水前寺鯉太郎
第1部

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第19話

重臣たちの声が、謁見の間に満ちていた。


「卑しい馬医を重用し、王宮の秩序を乱した。首医コ・ジュマン、万死に値する」


ミョンファンが言った。他の重臣たちが頷いた。


コ・ジュマンは立ったまま、動じなかった。


「能力に貴賤はない」


それだけ言った。


「彼を追放することは、この国の医学の未来を捨てることと同じです」


ミョンファンの口元が動いた。だが声にはならなかった。


国王・顕宗が口を開いた。


「余の命を預けているのは首医である」


それで終わった。


重臣たちが退いた。ミョンファンも礼をして下がった。表情を変えなかった。変えないまま、廊下を歩いた。


---


その三日前、クァンはコ・ジュマンに告げていた。


「王様の瞳に、黄みがあります」


コ・ジュマンが顔を上げた。


「単なる胃腸の不調ではないと思います。胆嚢の中に石があるのではないか」


「胆石か」


「馬で同じものを見たことがあります。初めは腹を気にする程度です。だが、石が管を塞いだ時、突然倒れます。前触れが少ない」


コ・ジュマンはしばらく考えた。


「証拠はあるか」


「瞳の黄みと、食後に顔を顰める頻度。それだけです」


「それだけか」


「はい」


コ・ジュマンは窓の外を見た。


「……分かった。覚えておく」


---


謁見の間で、王が崩れ落ちた。


腹を掻き毟りながら、声を上げた。脂汗が額を伝った。顔が土色になった。


コ・ジュマンが駆けた。クァンも続いた。


「胆石による閉塞です」


コ・ジュマンが告げた。


「排石の処置を行います」


周囲がざわめいた。仁宣大妃が立ち上がった。


「胆石とは何か。その診断の根拠は」


「数日前から、症状が出ていました」


「馬医の診断を根拠にするのか」


コ・ジュマンは振り返らなかった。


「処置を始めます」


クァンは王の傍らに膝をついた。脈を取った。速かった。飛んでいた。石が管を完全に塞いでいる。時間がない。


コ・ジュマンが鍼を構えた。胆汁の流れを促す経穴を選んだ。クァンが脈を押さえ続けた。煎じ薬を用意した。


一刻が過ぎた。


石は動かなかった。


王の呼吸が浅くなった。


「いつまで待てというのか」


仁宣大妃の声が高くなった。


「首医、其方の処置が王を殺そうとしている」


「もう少し時間を」


「時間がない。見れば分かる」


ミョンファンが進み出た。


「大妃様。これは馬医の誤診に基づいた処置です。首医コ・ジュマンを今すぐ退けなければ、王の命が危うい」


「ミョンファン殿の言う通りです。直ちに——」


「大妃様」


コ・ジュマンが言った。


「この診断は私が下しました。責任は私にあります」


「ならば責任を取れ。投獄せよ」


兵がコ・ジュマンの腕を掴んだ。


コ・ジュマンはクァンを見た。


何も言わなかった。目だけで言った。


クァンは頷いた。


---


王の寝所に、クァンだけが残った。


兵が外に立った。入ってくるまでの時間がどれくらいあるか、分からなかった。


王の脈を取った。


弱くなっていた。石が動かなければ、今夜が峠だった。


クァンは考えた。


鍼が届いていないのではない。コ・ジュマンの技術は確かだった。石が大きいのだ。大きすぎて、通常の排石では動かない。管を緩める必要がある。緩めてから、流す。


馬医時代に老医師が見せた手技を思い出した。


鍼を打ったまま、微かな熱を伝える。指先の温度を鍼に乗せる。体内の管が、熱を受けて緩む。老医師は禁忌だと言った。熱が強すぎれば組織が傷む。正確さが要る。


「お前が一番、指先の温度を制御できる」


老医師はそう言って、一度だけ見せた。一度だけだった。


クァンは銀鍼を見た。


師匠が投獄された。師匠がクァンの診断を信じたから、投獄された。ここで止まれば、師匠が無駄に罪を負う。王が死ねば、師匠は生きて牢を出られない。


自分が動くしかない。


鍼を手に取った。


王の鳩尾を指で探った。胆管の走る場所。温度を伝えるべき一点。


見つけた。


「王様」


声に出した。聞こえているかどうか、分からなかった。


「痛みます。ですが、必ず出します」


鍼を沈めた。


深く。正確に。


指先に意識を集めた。体温を、鍼の先に送る。送りながら、角度を保つ。鍼が熱を持ち始めた。管が反応し始めた。


王が呻いた。


「出てこい」


クァンは動かなかった。鍼を握ったまま、指先だけを動かし続けた。


「動いてくれ」


扉が開く音がした。


仁宣大妃が入ってきた。後ろに兵がいた。ミョンファンもいた。


「何をしている」


大妃の声が部屋に響いた。


クァンは鍼から手を離さなかった。


「処置中です」


「下がれと言っている」


「今、鍼を抜けば王様の命が危うくなります」


「賤民が王に触れている。不敬だ。引き剥がせ」


兵が近づいてきた。


その瞬間、王が大きく呻いた。


腹の音がした。


続けて、もう一度。


王の顔が、かすかに変わった。土色から、何かが戻り始めた。


脈が変わった。クァンの指に、流れが戻ってくる感触が来た。


石が、動いた。


管を抜けていく感触が、鍼の先に伝わった。


クァンはゆっくりと鍼を引いた。


部屋が静まり返った。


兵が止まっていた。大妃が止まっていた。ミョンファンが止まっていた。


王の呼吸が、深くなった。


「……楽に……なった」


かすれた声だった。


誰も動かなかった。


クァンは鍼を手の中に収めた。立ち上がった。


大妃を見た。ミョンファンを見た。


「王様の処置は終わりました」


静かに言った。


「コ・ジュマン署長の釈放をお願いします」


大妃が何か言いかけた。


言えなかった。


王が目を開けていた。


「……其方が、ペク・クァンか」


クァンは膝をついた。


「はい」


「……余の腹の中を、分かっていたのか」


「数日前から、兆候がありました」


王はしばらくクァンを見た。


「コ・ジュマンを釈放せよ」


それだけ言った。


大妃が息を呑んだ。ミョンファンの手が、袖の中で動いた。


---


廊下に出た時、足が震えていた。


ずっと震えていた。震えたまま処置していた。震えていることを、指先だけには伝えなかった。


壁に手をついた。


コ・ジュマンが戻ってくる。王が生きている。


それだけが、今夜確かなことだった。



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