第10話
チニョンの呼吸が、浅くなっていた。
クァンは彼女の脈を指で押さえたまま、動けなかった。速い。細い。熱が上がっている。薬は煎じた。原因も分かった。だが、解毒が間に合うかどうか、それだけが分からなかった。
村の外では役人が叫んでいた。
「痘瘡だ。村を封鎖しろ。家を焼け」
医官たちが頷いていた。クァンの中毒説を報告した時、誰も聞かなかった。貝塚と醸造所の残骸を持ち込んだ時も、鼻で笑われた。「馬医の妄言だ」と言われた。証明する手段が、まだなかった。
「ペク・クァン」
署長コ・ジュマンの声が背後から来た。
「お前の目は死んでいないはずだ。諦めた顔をするな」
クァンは返事をしなかった。
チニョンの指が、かすかに動いた。
クァンの手を、握り返した。力はなかった。それでも、握ろうとしていた。
「……信じてる」
声になっていなかった。唇が動いただけだった。それだけだった。
クァンは立ち上がった。
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水源を遡った。二度目だった。一度目に見たものを、もう一度見るためではなく、一度目に見落としたものを探すために。
長雨で崩れた土砂の下を、手で掘った。泥が爪の中に入った。膝が濡れた。
古い貝殻が出てきた。
変色していた。白ではなく、黄みがかった茶色だった。その下に、割れた瓶があった。酢の匂いがした。古い、腐りかけた酢だった。放棄された醸造所の残骸だと、後から分かった。
クァンは貝殻と瓶の破片を持って立ち上がった。
これが土壌に染み込み、地下水と混じり、井戸に流れた。牛が飲んだ。人が飲んだ。貝の毒と腐敗した酢が土の成分と結びついて、見たことのない毒液になった。医学書には載っていない。この目で見て、この手で掘って、初めて分かる答えだった。
医官たちのところへ戻った。
「原因が分かりました」
貝殻と瓶を差し出した。
医官の一人が、それを一瞥した。
「貝と酢だと」
「はい。水源の上流に——」
「戯言を」
男は顔を背けた。
「この規模の災厄が、そんな些細なことで起きるはずがない。村を焼いて封鎖する。お前は虚偽の報告をした。連行しろ」
兵がクァンの腕を掴んだ。
「待ってください」
声がした。
全員が振り向いた。
チニョンが、壁に手をついて立っていた。立っているだけで精一杯の体だった。それでも立っていた。
「その薬を、私に飲ませてください」
署長が持っていた椀を見ていた。クァンが原因を特定して調合した解毒薬だった。まだ誰も飲んでいなかった。効くかどうか、証明されていなかった。
「チニョン、駄目だ」
クァンが言った。
「お前の体は——」
「クァンさんが見つけた答えを、私が証明します」
チニョンはクァンを見た。
「それが私の戦い方です」
クァンは止められなかった。止める言葉が出なかった。この女は、自分で決めた時には動く。泥棒市で荷物を盗んだ時から、そうだった。ミョンファンの屋敷で生き延びた八年間も、そうだったはずだ。
チニョンは署長の手から椀を受け取った。
飲んだ。
一息で飲んだ。
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誰も喋らなかった。
クァンはチニョンの傍らに膝をついた。脈を押さえた。速い。まだ速い。変化が出るまで、どれくらいかかるか分からなかった。一刻か、二刻か、それとも朝まで待たなければならないか。
医官たちが壁際に立って見ていた。腕を組んでいた。嘲笑を浮かべている者もいた。
クァンは見なかった。
チニョンの脈だけを見ていた。指先に神経を集めた。変化を待った。父ソックが馬の脚を処置していた夜、同じように脈を押さえて夜明けを待ったことを思った。牧場で仔馬の首筋に鍼を打って、朝まで動かなかった夜を思った。待つことは、諦めることではない。待ちながら、手を動かし続けることが、自分にできる唯一のことだった。
一刻が過ぎた。
チニョンの脈が、変わった。
速さが、落ちた。細さが、戻ってきた。
頬に色が差した。ごくかすかな、血の気だった。
荒かった呼吸が、深くなった。
チニョンの目が開いた。
「……熱が」
かすれた声だった。
「引いていく」
クァンは返事をしなかった。
脈を押さえたまま、もう少しだけ確かめた。上がってこない。下がり続けている。解毒が始まっている。
それから、ようやく息を吐いた。
「……よかった」
それだけだった。泣かなかった。叫ばなかった。ただ、手の力を少しだけ緩めた。
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利川の村は救われた。
井戸が封じられ、残った水源が浄化され、倒れていた村人たちはクァンの解毒薬で快復した。報告が王宮へ届いた。
数日後、漢陽で任命式が行われた。
「恵民署長コ・ジュマン。利川の難局を救った功績、誠に天晴なり。本日より、首医に任ずる」
祝辞の列の中に、ミョンファンがいた。
表情は動かなかった。長年培った制御だった。だが指だけは、袖の中で白くなるほど握られていた。
コ・ジュマンではなかった。あの馬医だ。貝と酢の話を信じた老医師ではなく、その答えを持ってきた名もない馬医が、この流れを作った。自分が「首医」の座を確実なものと思っていた時に、あの男が現れた。利川で現れ、神駿の件で現れ、そのたびに何かを変えた。
ミョンファンの目が、門の外へ向いた。
チニョンと並んで歩くクァンの後ろ姿があった。
二人の距離が、以前より近かった。それも、気に入らなかった。チニョンはマファンの娘として手元に置いた。自分の懺悔の形として。その娘が、あの男に近づいている。
「ペク・クァン」
呟いた。声に出さなかった。
「その手、いつまで動くかな」
空が曇っていた。
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クァンはその視線を知らなかった。
チニョンと並んで王宮の門を出た。人の往来に混じった。秋の風が吹いた。
「コ署長が首医になられた」
チニョンが言った。
「よかった」とクァンは言った。
「貴方の手柄なのに」
「俺は馬医です」
それだけ言った。嘘ではなかった。悔しくもなかった。コ・ジュマンが首医になれば、正しい医術が広まる場所が増える。それで十分だった。今は。
いつかは、十分ではなくなるかもしれない。
その時のことは、その時に考える。
チニョンが隣を歩いていた。利川で倒れた時より、顔色が戻っていた。まだ本調子ではなかった。それでも歩いていた。
クァンは前を向いて歩いた。
背後に何かがある気がした。振り返らなかった。
今は、前だけを見ていればいい。
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