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可愛いけど、可愛くないの。【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/01

「亜羽が好きだよ」

ユウスケはいつもそう言ってくれた。

胸の真ん中に、その優しさがちょろっとだけ注がれて、溜まる。

その時は、それでいいの。

世界一満たされた気分になるの。

ユウスケのお姫様になれるのは、今までで一番幸せだったの。


それなのに、その水はすぐに蒸発してしまう。

そんなこと思ってくれるのは、今だけでしょ。

本当は、他の子がいいんじゃないの。

もっといい子がユウスケに合うはずなのに、

亜羽じゃない方がいいんじゃないかな。

こんな汚い亜羽のことは、誰も好きになってくれるはずがないのに。


「亜羽の顔も好きだよ、かわいいよ」

それで、もう駄目だった。

「嘘ばっかり言わないで」

「本当だよ」

「亜羽は可愛いけど、可愛くないもん…」

「亜羽?」

「もう、無理…!」

それでユウスケの家を飛び出していた。

ユウスケと居ても、この黒いヘドロみたいな気持ちは浄化されない。

だからって、これをどうやって処理していいのかもわからない。

みんなはどうやって生きてるの、わからないよ。

愛してほしいのに、愛を与えられると、拒絶してしまう。

そんな自分が、一番嫌いだ。

この世で一番嫌いなものは、亜羽自身だ。


「あいつ、ブスだよな」

中学の時の、クラスの男子が言ったことがきっかけだった。

3人にクスクス笑われて、体温が消えていくようで、その日以来鏡が気になった。

近くの可愛い子、遠くの可愛い子。

たくさんの顔を見て、研究して、メイクも頑張った。

高校生になってからはすぐにバイトして、全部を容姿の何かに変換した。

それでも、元から可愛い子には到底敵わない。


可愛い子以外、価値がないみたい。

バカみたい。

最初から報われるルートに入っていない。

もっと可愛く生まれてきたかった。

可愛く生まれて、優しくされたかった。


今の亜羽の顔が可愛いのは当たり前だ。

だって、努力したもん…!

バイトじゃ間に合わないから、それ以外でいっぱいお金を稼いで、全部を容姿に注ぎ込んだ。

まずは目を二重にしたし、ガタガタの歯は矯正した。

脱毛だって完璧だ。

ユウスケは、亜羽の肌はスベスベだねって言ってくれる。

鼻だってより小さくしたし、輪郭は理想の形にまで持っていった。

結局体も気になったから、胸も大きくした。

脚は唯一細くて良かったけど、気を抜いたりしない。

努力してるもん…、今の亜羽はちゃんと可愛い。

でも、ユウスケに『顔が可愛い』と言われるのは、腹の底のマグマが沸き立ってしまう。

この顔になってからは、自信がついたはずなの。

でもこの顔を手に入れるために、自分のことは擦り減らしてしまった。

それがどこのなんなのか、亜羽はバカだからわからないけれど、その減っちゃったものは、いつまで経っても戻ってこない。

どんどん減っていったそれは、元々なかったものなのかもしれない。

亜羽は可愛いけど、綺麗じゃない。

綺麗だけど、可愛くない。

その堂々巡りで、いつもぽっかり独りぼっちになってしまう。

闇の中に放り込まれた気持ちになって、そこから上がってこられない。

なんだっけ、教科書に載っていた、誰かが書いた蜘蛛の糸みたいなやつ。

亜羽、あれみたいなの。

見えないぐらい細くて、いつも暗いの。


ショーウィンドウに映る亜羽は、夕方巻いた髪が取れていないし、ふわふわのワンピースも、厚底の靴もよく似合っている。

ユウスケが好きなピンクメイクもバッチリだし、涙袋もあるし、可愛いはずなんだ。

「…ユウスケ、怒っているかな」

その場で、しゃがみ込んだ。

映る姿からも、ユウスケからも逃げたくて。

こんな夜に飛び出してくるんじゃなかった。


ユウスケは、もう亜羽に呆れているかもしれない。

こんな夜こそ、その腕の中にいればよかったのに。

亜羽、やっぱりバカだな…。

ユウスケがこんなことで怒らないのを知っている。

ただ心配して、亜羽が落ち着くまで、そっと抱きしめてくれるだけだ。

ユウスケの体温と匂いに包まれて、亜羽が眠るのを見守ってくれる。

そんなユウスケが好きで、それで苦しくてたまらない。

亜羽は、胸を爪で引っ掻かれた気持ちがしちゃうんだ。

ユウスケが溜めてくれたはずの、あの水がまたすぐに足りなくなっちゃう。

そして、ユウスケには亜羽じゃないと、思うんだ…。


「お姉さん、可愛いね〜。よかったら、これから一緒にどう?」

軽薄そうな男の声が、上から降ってくる。

顔も見えてないくせに、何言ってんだ。

見上げると、ユウスケよりチャラくて、ユウスケよりお金を持ってそうで、ユウスケより亜羽のことを大事にしなさそうな奴だった。

亜羽はユウスケのお姫様なのに、ユウスケは亜羽の王子様じゃない。

「…亜羽、安くないからいい」

「お姉さん可愛いから、はずむよ」

ニヘラと笑う男の気味悪さに、胸の真ん中に泥水がドバッと溜まる。

ヘドロと混ざって、いい感じになる。

ああ、亜羽はやっぱり、これくらいなんだよ。

亜羽の蜘蛛の糸は、ユウスケじゃなくて、こいつか。

亜羽は、ユウスケが褒めてくれた可愛い爪を差し出した。



毎日投稿32日目。お読みくださりありがとうございました!

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