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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
本家の檻

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お披露目会

煌びやかな会場。


女性は豪華なドレスに身を包み、

男性はタキシードで隙なく整えている。


華やかで――息苦しい。


笑顔の裏で値踏みする視線が、あちこちから交差していた。


その空気を見下ろすように、会場の階段上。


主役が、姿を現す。


ルミエル。


招待客たちは待ち侘びていた――はずなのに、


その姿を見た瞬間、ざわめきが止まった。


ルベルと共に、ルミエルが姿を現す。


その瞬間、会場の空気がわずかに揺れた。


紺色の髪。

光を受けて、深い海のように静かに揺れる。


そして——金の瞳。


一瞬で、視線が集まった。


「……あの色……」


誰かの小さな呟きが、波紋のように広がる。


黒のドレスに包まれたルミエルは、華やかな場には似つかわしくないほど儚く、細い。

その存在は、隣に立つルベルの完璧な美貌と対照的だった。


——幼い。

——弱そうだ。

——あれが、後継?


遠慮のない視線が、容赦なく突き刺さる。


ざわめきが、広がりかけた、その時。


ルベルが一歩、前に出た。


それだけで、空気が凍りつく。


「集まっていただき、ありがとうございます」


低く、よく通る声が、会場を支配する。


「本日、新たに家族として迎え入れた者を紹介する。

ヴェルファレイン・ルミエルだ」


ルベルは、ルミエルの手を取る。


震えを隠すように——いや、逃がさないように。


そっと、自分の隣へと導いた。


「……ヴェルファレイン家の、一員になりました……ルミエルです」


かすかに震える声。


指先が、小さく揺れている。


それでもルミエルは、教えられた通りに頭を下げた。


綺麗な——だが、痛々しいほどに必死な会釈。


沈黙が落ちる。


そして、次の瞬間。


「……子供ではないか」

「養子、だと……?」

「まさか、本気で後継にするつもりか」


抑えきれない囁きが、あちこちで漏れた。


そのすべてを、ルミエルの金の瞳が静かに受け止めていた。


挨拶も早々に、ルベルとルミエルは階段をゆっくりと降りていく。


隣にルベルがいる限り——

少なくとも、露骨な侮辱はない。


そう思っていた。


だが。


床に足をつけた、その瞬間だった。


「ルベル様」


若い男が、進路を塞ぐように一歩前へ出る。


周囲の空気が、わずかに張り詰めた。


「そのお嬢様は——まさか、後継者に?」


視線が、ルミエルへ向けられる。


値踏みするような、冷たい目。


「そうだが」


間を置かず、ルベルは答えた。


「何か問題でも?」


低い声。


だがそれだけで、場の温度が一段下がる。


男は、わずかに口角を歪めた。


「……いえ。ただ——」


一瞬、ルミエルを見下ろす。


「随分と……頼りなさそうだと思いまして」


空気が凍る。


誰も、声を出さない。


その沈黙の中で。


男は、小さく舌打ちをした。


「そんなことを、わざわざ言いに来たのか?」


ルベルの声は、低い。


「名も名乗れない者が、うちの娘を値踏みするとは——随分な度胸だな」


空気が、張り詰める。


男は一瞬、言葉に詰まり——

すぐに取り繕うように頭を下げた。


「……失礼いたしました。私は、カイン・ヴァルディスと申します」


わずかに震えた声。


ルベルは、短く鼻で笑った。


「ヴァルディス家か」


その一言に、温度はない。


「躾の仕方を、間違えたと見える」


ルベルは、わずかに視線を逸らした。


「…… ヴァルディス家の当主は、確か——」


小さく、思い出すように呟く。


「孫が生まれたと、随分と喜んでいたな」


その一言で。


カインの表情が、はっきりと強張った。


「……っ」


「そういえば——」


ルベルの視線が、ゆっくりと戻る。


「子供がいるのだったか」


空気が、冷える。


カインは慌てて口を開いた。


「い、今は……その……まだ幼く……ちょうど、お嬢様と同じ年頃かと……」


言葉が、乱れる。


視線が、逃げるようにルミエルへ向いた。


「そうか。では、ヴァルディス家の子息は——さぞ優秀なのだろうな」


穏やかな声音。


だが、その奥に温度はない。


カインの口元が、わずかに緩む。


「ええ……同年代の中では、頭一つ抜けていると自負しております」


ルベルは、軽く頷いた。


「なるほど」


一拍。


「ルミエルは、最近ようやく無詠唱ができるようになってな」


静かに、告げる。


さらに、わずかに間を置いて——


「ヴァルディス家では、それくらい当然なのだろう?」


「……っ、それは……」


カインの言葉が、詰まる。


否定できない。


無詠唱——それが意味するものを、この場にいる誰もが理解していた。


ざわめきが、広がる。


「無詠唱だと……?」

「まさか、この年で……」


視線が一斉にルミエルへと集まる。


先ほどまでの値踏みとは違う。


明らかに、色が変わっていた。


カインは、何か言おうとして——


言葉を失う。


「どうした、カイン」


ルベルが静かに言う。


「続きがあるのだろう?」


逃げ場はない。


周囲の視線が、すべてカインに向けられている。


「……い、いえ……出過ぎた真似を……」


絞り出すような声。


先ほどまでの態度は、影も形もない。


ルベルはそれを一瞥し、


「そうか」


興味を失ったように、視線を外した。


それだけで——


勝敗は、決まっていた。


ルベルとルミエルは、会場の中心へと歩き出した。


ざわめきが、少しずつ大きくなる。


視線が刺さる。


ルミエルの手は、わずかに震えていた。


「……大丈夫か」


隣を歩きながら、ルベルが低く問う。


ルミエルは一瞬だけ視線を落とし、

小さく頷いた。


「……大丈夫」


その声は、かすかに揺れている。


ルベルはそれ以上は触れず、代わりに軽く顎で示した。


「あっちを見ろ。エルヴィアンがいる」


ルミエルが顔を上げる。


「モミジの話、聞きに行くといい」


さらに視線を滑らせる。


「イオランもいるな。……あっちはカリオスとアラステアか」


最後に、ひときわ目立つ男へと視線を向けた。


「あそこにいるのは――先生だ」


一拍、間を置く。


「何かあったら、あいつらのところへ行け」


そこで初めて、ルベルはルミエルをまっすぐ見た。


「俺はこのあと、どうしても離れる」


短く、言い切る。


「……わかった」


先ほどより、ほんの少しだけ声が明るい。


だが、その足取りにはまだ迷いが残っていた。


ルベルはそれを見て、わずかに目を細める。


――限界か。


側に控えていたエルへ、視線だけで合図を送る。


すぐに気づいたエルが、一歩前に出た。


「ルミエルを、エルヴィアンのもとへ」


「かしこまりました」


エルが静かに頭を下げる。


「こちらへ」


促されるまま、ルミエルは小さく頷き、

そのまま会場の奥へと歩いていった。


――その背が、人混みに紛れていく。


次の瞬間だった。


まるで堰を切ったように、

ルベルの周囲へ人が雪崩れ込む。


「ルベル、少々よろしいですか」

「先ほどの件ですが――」


一斉に向けられる視線と声。


先ほどまでの静けさが、嘘のように消える。


一方その頃――


人波を抜けながら、ルミエルは小さく呟いた。


「……人、すごい」


思わず漏れた本音に、隣のエルが微笑む。


「皆、ルミエルのことを知りたがっているので」


一拍置いて、少しだけ柔らかく続けた。


「――普段は、誰も近寄りませんから」


緊張が、少しだけ和らいだ頃――

ルミエルはエルヴィアンのもとへと辿り着いていた。


「タリウス……こんにちは……」


小さく頭を下げる。


エルヴィアンも、静かに一礼した。


「ルミエル様、こんにちは。一番に私のところへ来てくれたのですね」


柔らかな笑みを向ける。


「うん……ちょっと、緊張してて……」


その声は弱く、視線もどこか落ち着かない。


――助けて。


言葉にはならないそれが、はっきりと滲んでいた。


ふと、周囲に意識を向ける。


あちこちから向けられる視線。

値踏みするような、探るような目。


逃げ場はない。


本来なら、自分で立たなければならない場だ。


それでも――


エルヴィアンは、小さく息をついた。


「……ルミエル様」


少しだけ声の調子を変える。


「モミジが、さっきから庭園で猫の姿になって隠れているそうですよ」


何でもないことのように続ける。


「会いに行ってみてはどうですか」


その言葉に、ルミエルの顔がぱっと明るくなる。


「い、行っていいの……?」


エルヴィアンは、静かに頷いた。


その合図を受けると同時に、ルミエルは足早にその場を離れる。


背後から聞こえていたざわめきが、少しずつ遠ざかっていく。


扉を抜け、庭園へと出た瞬間――


空気が、変わった。


張り詰めていた気配がほどけ、

代わりに、静けさがそっと包み込む。


夜の風が、頬を撫でた。


「……はぁ……」


こらえていた息を、ようやく吐き出す。


胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけ軽くなる。


それでも――


完全には、消えない。


会場の光も、視線も、まだ背中に残っている気がした。


ルミエルは小さく首を振ると、視線を前へ向ける。


「モミジ……どこ……?」


かすかな期待を滲ませながら、庭園の奥へと歩き出した。


静かな夜の中に、足音だけが溶けていく。


――その先にあるのが、ほんのひとときの安らぎか。

それとも、次の波か。


まだ、ルミエルは知らない。


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