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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
本家の檻

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成長と試練

ルミエルがヴァーミリオンを受け入れてから、一週間――


彼が家庭教師として側に付いてから、確かな変化が現れていた。


まずは、魔法。


元々、無詠唱で扱うことはできていたが――


「言葉にすることで、術式の無駄が削れる」


そう教えられ、試したその日から、明らかに違った。


展開が、速い。


ほんの一言添えるだけで、魔法は以前よりも滑らかに発動する。


まるで、詰まっていた何かが流れ出したかのように。


それだけではない。


歴史、語学、計算――


どれも一度に詰め込むのではなく、理解を確かめながら丁寧に進められていく。


「急ぐ必要はありません。理解しないまま進む方が、よほど無駄ですから」


淡々とした口調でそう言うヴァーミリオンに、ルミエルは何度も救われた。


さらに――


社交界で必要とされる所作や礼儀。


椅子の引き方、視線の落とし方、言葉の選び方。


それらすべてが、少しずつ身体に染み込んでいく。


気づけば――


一週間前とは、まるで別人のように。


ルミエルは、確かに変わり始めていた。


ルミエルの変化と同じくらい――

ヴァーミリオンの態度も、明らかに変わっていた。


「ルミエル様。本日はここまでです」


そう言うと、ヴァーミリオンは自然な動作でルミエルを抱き上げる。


「グラヴェルさん。今日も……ありがとうございます」


小さく礼を言うと――


ヴァーミリオンの目が、ぱっと輝いた。


次の瞬間、柔らかな頬に顔を寄せ、頬ずりする。


「そろそろ、呼び捨てにしてください。ジィジィと呼んでも良いのですよ」


「……は?」


扉が開き、部屋に入ってきたルベルがその光景に顔を引き攣らせた。


あまりの変わり様に、言葉を失う。


その隙に、ルミエルはヴァーミリオンから逃れるように身をよじる。


「先生! 何がジィジィですか!」


ぴしりと言い放ち――


「ジィジィは、うちの父の呼び方です!」


ヴァーミリオンの視線がルベルに移った瞬間――

その表情は、いつもの冷たいものへと戻った。


「……私の孫に迎え入れたいくらいです」


そう言いながら、再びルミエルへと目を向ける。


「それに、若様とエルと違い、ルミエル様は物分かりが良く、素直で、とても優秀です」


その言葉に、ルミエルはふと想像した。


幼い頃のルベルの姿を。


「グラヴェルさん……ルベルって、どんな感じだったの……?」


問いかけられたルベルは、わずかに視線を逸らす。


――嫌な予感しかしない。


一方で、ヴァーミリオンの額には青筋が浮かんでいた。


「お二人は、やんちゃの度を超えておりました」


静かに、しかし確実に怒気を含んだ声。


「屋敷の中で魔法を使い、ぼや騒ぎを起こす。授業にいないのは当たり前――」


そこで一度、言葉を切る。


そして、改めてルミエルを見る。


「……それに比べて、ルミエル様は――」


ほんのわずか、声が柔らいだ。


「本当に、良い子です」


「昔のことを、いちいち引き合いに出さないでください」


ルベルは不機嫌そうにヴァーミリオンを睨みつける。


だが――


当の本人は、まったく意に介した様子もない。


「ええ。確かに、ルミエル様と比べるのは失礼ですね」


さらりと肯定し――


「今でも、碌でもなく暴れ回っていらっしゃるようですから」


静かに追撃した。


「……何を根拠に」


低く、押し殺した声。


しかしその言葉を最後まで言わせる前に、


「先日も執務室で書類を投げておられましたね」


ぴたり、と被せる。


ルベルのこめかみが、ぴくりと引き攣った。


そのやり取りを見ていたルミエルは、


きょとんと首を傾げる。


「ルベルは……何してるの……?」


ルベルは、ルミエルの問いにすぐには答えられなかった。


「そ、それより……ルミエルに話があったんだ」


露骨な話題転換。


ヴァーミリオンの視線が、鋭くルベルを射抜く。


――逃げましたね。


そう言わんばかりの圧。


ルベルも気づいていたが、あえて無視した。


「なに?」


ルミエルが首を傾げる。


ほんの一瞬、間が空いて――


「……ルミエルのお披露目会を開こうと思う」


その一言で、空気が変わった。


ルミエルの胸に、小さく緊張が走る。


「それは……しないと……だめ?」


不安げな声。


ルベルはわずかに視線を落とし、


「必要だ。お前を正式に認めさせるためにもな」


低く、しかしはっきりと言い切る。


ヴァーミリオンも頷き、ルミエルへと視線を向けた。


「ええ。避けては通れません」


先ほどまでの柔らかさは消え、教師としての厳しさが滲む。


「ルミエル様は、ヴェルファレイン家の後継者として、認められるべき存在です」


ルミエルにとって、新しい出来事は――どこか、前触れのように思えた。


この屋敷に来てから起きたこと、そのすべてが。


まるで、自分に試練を与えているかのように。


胸の奥が、わずかに重くなる。


「……分かった」


小さく、そう答える。


その声音に――


ルベルも、ヴァーミリオンも、どこか物足りなさを覚えた。


「ルミエル様。嫌なことは、嫌だと仰ることも大切ですよ」


静かに諭す声。


ルミエルは、少しだけ視線を落とす。


嫌だと言えば――どうなるのか。


言わなければ――どうなるのか。


その答えを、まだ持っていなかった。



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