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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
本家の檻

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空禍狐が見ていたもの

レヴァントの腕の中で、大事そうに抱えられているルミエル。

その姿を目にした瞬間――ルベルの表情が固まった。


距離が近づくにつれて、顔つきがみるみる険しくなる。


「レヴァント……!」


低く呼ぶ声に、周囲の空気がピリッと張り詰めた。


「何を連れて来てるんだよ。それにモミジ。誰が部屋を抜け出していいなんて許可した?」


レヴァントは気にも留めず、豪快に笑う。


「まぁまぁ、細かい事は気にするな!」


その一言で――


ルベルの額に青筋が浮かんだ。

拳が小さく震える。


「……どこが細かいんだ?」


声は低いが、怒りは隠せていない。


「こんな小さい子を、危険な場所に連れて来てる自覚はあるのか?」


だがレヴァントはまったく動じない。


むしろ胸を張って言い放つ。


「俺がいるから大丈夫だ!」


ルミエルはレヴァントを見上げ、不安そうな表情を浮かべた。


その様子に気づいたルベルの顔が険しくなる。


次の瞬間――

ルベルはレヴァントの腕からルミエルを奪い取った。


小さな体は、そのままルベルの腕の中にすっぽりと収まる。


「ルミエル。知らないおじさんについて行ったらダメだ。危ないから、すぐ屋敷に戻るぞ」


そう言いながら、ルベルは転移魔法の術式を組み立て始めた。


その気配に気づいたルミエルが、ルベルの服をぎゅっと掴む。


「だめ」


小さな声だった。


だが次の言葉は、はっきりとしていた。


「私、やらないといけない事あるの」


いつもより少し大きな声が、ルベルの耳に届く。


ルベルは思わず眉をひそめた。


「やる事って何だ?ここは危険だ」


そのやり取りを見ていたレヴァントが、突然腹を抱えて笑い出す。


「ハハハ!若様、なんですかその話し方!」


次の瞬間――


モミジの手が素早く伸び、レヴァントの口を塞いだ。


モミジはゆっくりとルベルの顔を見た。


その表情は、さっきよりも明らかに険しくなっている。


そこへ――

後ろから空気を壊すように、エルが姿を現した。


エルは口元を手で押さえながら、くすくすと笑う。


まるでレヴァントに賛成しているかのようだった。


「そうなんですよ。ルミエル様と話す時の主君ときたら」


モミジに口を塞がれていたレヴァントも、ぐいっとその手を振りほどく。


「全然違うじゃないか。小娘に骨抜きだな」


その瞬間――


ルベルの身体から、じわじわと殺気が溢れ出した。


空気が一気に重くなる。


モミジは思わず額を押さえた。


「言いたいことはそれだけか?」


ルベルは低く言った。


「俺は今、大事な娘と話しているんだが」


声には苛立ちが滲んでいる。

それでも怒りは、どうにか押さえ込んでいた。


その様子を見て、レヴァントは満足したのか、からかうのをやめる。


そして表情を引き締めた。


「……その子の言う通りだ」


さっきまで笑っていた男とは思えない声だった。


「俺は、その子を屋敷に帰す必要はないと思っている」


その言葉に、ルベルの眉がわずかに動く。


エルも思わずレヴァントを見る。


普段の彼からは想像できない、真面目な口調だった。


「どういう事です?」


エルが静かに問いかける。


「ルミエル様は年齢もそうですが……戦闘向きではないのは明らかです」


レヴァントはその言葉を聞き、あっさりと頷いた。


「それぐらい見りゃ分かる」


腕を組みながら続ける。


「ただな――この小娘は、空禍狐を止める可能性がある」


その場の空気がわずかに変わった。


「もし止められなくても構わねぇ」


レヴァントは迷いなく言い切る。


「今回の被害は全部、俺の責任で負う」


その言葉に、一切の迷いはなかった。


ルベルは静かにレヴァントを見る。


そして――


わずかに口角を上げた。


レヴァントが今、何を言ったのか。


それはつまり――

ルミエルを認めたという事だった。


「空禍狐を止められるのか?」


ルベルは改めて、ルミエルの目を見た。


本気で確かめている声だった。


ルミエルは一瞬だけ唇を噛む。

小さな肩がわずかに震えていた。


それでも、はっきりと言う。


「……わからない」


少しだけ間を置いて、続けた。


「でも、声が聞こえるの」


その言葉に、周囲の空気が止まる。


「助けてって……」


空禍狐と意思疎通が出来る者など、聞いたことがない。


ルベルの目が細くなる。


「空禍狐が……そう言っているのか?」


「うん」


ルミエルは迷わず頷いた。


「助けて、早く見つけてって……」


小さな手がぎゅっと握られる。


「だから……あそこまで行って、話したい」


真っ直ぐな金色の瞳。


その真剣な視線に、ルベルは言葉を失った。


その様子を見ていたエルが、静かに口を開く。


「ですが……聞こえるのと、言葉が通じるかは別の話です」


エルは静かに言った。


ルミエルの視線が落ちる。


その意味は、よく分かっていた。


自分でも確信はない。


「そうかもしれない……」


小さく呟く。


「でも……通じるかも……」


わずかに顔を上げたその時だった。


エルの手にある、淡く輝く石が目に入る。


その瞬間――


ルミエルは、ほんの僅かな違和感を覚えた。


だが、それが何なのかまでは分からない。


「せやけど」


モミジが腕を組んで言う。


「ここから話しかけても無理やろ。遠すぎる」


城壁の上から見ても、かなり離れている。


空禍狐からすれば――

ルミエル達など、アリほどの大きさにしか見えない距離だった。


冷たい風が城壁の上を吹き抜ける。


その中で――

ルベルは決断できずにいた。


ルミエルを危険な場所へ行かせるべきか。

それとも、今すぐ屋敷へ戻すべきか。


迷いが胸の奥で渦を巻く。


するとレヴァントが、両手を腰に当てて大きく息を吐いた。


「若様は悩む必要ない!」


城壁に響くほどの声。


「俺が責任を取るって言っただろう!」


そう言うと、レヴァントはルミエルへ手を差し出した。


来い――


言葉にしない合図。


ルミエルは一瞬だけ戸惑う。

だがすぐに意味を理解し、小さな手を伸ばした。


その瞬間。


ルベルの腕から、するりと体が離れる。


「おい!どこに連れていく気だ!」


レヴァントの赤い髪が風に揺れる。

同時に、ルミエルの長い紺色の髪もふわりと浮いた。


「若様に任せてたら進まないからな」


レヴァントはニヤリと笑う。


「俺が連れて行く」


膝を深く曲げる。


足元に赤い魔法陣が浮かび上がった。


炎が唸るように集まり、一点へと圧縮されていく。


空気が歪む。


「しっかり掴まってろ」


次の瞬間――


ドンッ!!


爆発のような反発と共に、レヴァントの体が空へ弾け飛んだ。


城壁の石が砕け、衝撃波が周囲へ広がる。


そのまま、弾丸のような速度で空禍狐へ向かう。


だが――


途中でレヴァントは片手を軽く振った。


空中に、小さな炎が連続して弾ける。


爆ぜる火炎の反発を利用し、速度を一気に殺した。


そして――


二人の体は、空中で静止する。


まるでそこに見えない足場でもあるかのように。


ルミエルは目を開き、恐る恐る周囲を見た。


目の前には――


巨大な空禍狐の姿。


その存在感に、思わず息を呑む。


下を見れば、ルベル達の姿は小さくなっていた。


城壁も、兵士達も――

まるで豆粒のようだ。


横へ視線を向ければ、どこまでも続く夜空と山々。


静かな闇の世界が広がっている。


ルミエルは、その景色から目が離せなかった。


「おい!小娘、何か聞こえるか?」


レヴァントの声で意識が引き戻される。


「あ……うん」


ルミエルは頷き、巨大な狐を見つめた。


突然現れた二人を、空禍狐は警戒している。


だが――攻撃はしてこない。


低く、喉が鳴った。


ルミエルの耳に、声が響く。


「……ハッキリ聞こえる」


レヴァントの目が輝いた。


「本当か!?話しかけてみろ!」


ルミエルはゆっくり息を吸う。


できるだけ優しい声で、問いかけた。


「……何を、探しているの?」


その瞬間――


巨大な尾が唸りを上げた。


空を裂くように振り抜かれ、ルミエル達へ襲いかかる。


レヴァントは瞬時に反応した。


足裏の火力を一気に上げる。


爆ぜる炎の反発で、二人の体が上空へ跳ね上がった。


尻尾はその下を掠め、空気を激しく震わせる。


「……苛立ってるな」


レヴァントが低く呟いた。


レヴァントの問いに、ルミエルは小さく頷いた。


「うん……」


少し間を置いて、続ける。


「痛いって言ってる」


その言葉に、レヴァントの眉がわずかに動く。


「こっちの声は……届かないみたい」


ルミエルの表情が、少しだけ曇った。


だが、すぐに顔を上げる。


「でも、声はハッキリ聞こえるの」


レヴァントは興味深そうに身を乗り出した。


「なんて言ってる?」


ルミエルは巨大な空禍狐を見上げる。


苦しそうに体を震わせるその姿を見て、瞳がわずかに揺れた。


「……ここに」


静かに言う。


「魔物を刺激する何かが、たくさんあるって」


空禍狐の尾が空を揺らす。


「そのせいで……」


ルミエルは胸の前で手を握った。


「体が千切れるみたいに痛いって……」


レヴァントは思わず目を見開く。


「そんなにはっきり聞こえるのか?」


ルミエルはゆっくりと頷いた。


空禍狐の視線が、ずっと城壁へ向けられていた。


ルミエルはその事に気づく。


巨大な体で上空を旋回している。

だが――


目だけは、ずっとルベル達の方を見ていた。


胸の奥にあった違和感が、ゆっくりと形になる。


思い出す。


エルの手にあった、あの石。


そして空禍狐の言葉。


――魔物を刺激する何かが、何個もある。


ルミエルの瞳が大きく開いた。


「レヴァントさん……分かったかも」


レヴァントがすぐに反応する。


「分かったか!」


「降りて……」


その瞬間。


レヴァントは足裏の炎を消した。


二人の体が、一気に落下する。


風が唸りを上げ、夜空が流れていく。


ルミエルは思わず目を瞑り、レヴァントの服を強く掴んだ。


城壁が、凄まじい速さで迫る。


だが――


地面に叩きつけられる直前。


レヴァントの足裏から炎が噴き出した。


爆ぜる火炎の反発で、落下速度が徐々に削られていく。


城壁の上が、すぐそこまで近づく。


落ちる勢いが弱まると、ルミエルはゆっくり目を開けた。


その視線の先には――


ルベル達の姿。


そして。


エルの手の中で、淡く光る石があった。


ルミエルの胸が、強く高鳴る。


あれだ……


空禍狐が苦しんでいる原因。


その正体が、すぐそこにあった。


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