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奴隷だった少女は悪魔に飼われる   作者: アグ
扉の向こうの世界

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地下の斬撃2

前回のあらすじ


クライvsダクト モミジvs黒ずくめの戦いが激化!2人とも推され気味です。この後は逆転?かな?今回のエピソードでわかるはず!


ゆっくりみてくれたら嬉しいです

クライは、ダクトが振り下ろす凶暴な一撃を紙一重でかわしながら、反撃の隙を探っていた。

脅威なのは斧だけじゃない。――何も持っていない方の腕だ。

一度でも掴まれれば、骨がいくつ残るか分からない。


「逃げ回るばかりじゃねえか。お前は――刻み甲斐がある」


闇の中で、ダクトの口元が狂気に裂ける。


クライは刃を受け流しながら苦笑した。


「俺はこう見えて、そこそこ強いはずなんだがな……押されるとは思わなかった」


皮肉を含んだ声に、ダクトが豪快に笑い返す。


「ははっ! なら、俺も騎士団に入れるってことか!」


「お前みたいな素行の悪い男が入れるわけないだろ」


その言葉に、ダクトの目が愉悦に濁った。


「言うじゃねえか。――なら、本気で刻ませてもらう」


言葉より早く、巨体が地を蹴った。


(来る……!)


クライは息を殺し、腰をわずかに沈める。

斧より速い“空いた手”が、獲物を仕留めるため一直線に迫る。


――ここからが、反撃の幕開けだった。


ダクトの空いた手が、獣の爪のように一直線に迫る。

掴まれた瞬間、肩ごと引き裂かれる未来が鮮明に見えるほどの速度だった。


――だが、クライはそれを待っていた。


(その手だ。お前の“殺し手”は)


迫る腕を視界の端で捉え、クライは身体を半歩だけ滑らせる。

指先が頬をかすめ、熱い線を残した瞬間――


「っらあ!」


クライの肘がダクトの手首を叩きつけた。

乾いた衝撃音とともに巨腕が弾かれる。


「ちっ……!」


ほんのわずかに体勢が崩れた。


その一瞬を、クライは逃さない。


踏み込みと同時に横薙ぎの一撃を放つ。

空気が裂け、鋭い剣閃がダクトの胸元へ走った。


「ぐっ……!」


斧で受けるより一歩早く、刃が肉を掠める。

飛び散った血を見て――ダクトの笑みが、わずかに歪んだ。


「ほぉ……やりやがる……!」


痛みすら愉しむように笑いながらも、一歩後退する。

その足跡には、深い溝が刻まれていた。


息を切らしながらも、クライの眼光は鋭いままだ。


「逃げてばかりの騎士なんて、聞いたことないだろ」


皮肉を返し、剣先をまっすぐ向ける。


ダクトは鼻で笑い、口角を吊り上げた。


「へっ……面白ぇ。じゃあ次は――斬り結ぶだけじゃ済まねぇぞ」


殺気が空気を震わせる。

だが、クライはほんのわずかに笑った。


(やっと……互角に“立った”)


二つの影が、再び激突する。


ダクトの巨体が突進し、地面が震える。

真正面から受ければ粉砕される――それでもクライは剣を構えた。


「真正面か! そうでなくちゃな!」


斧が大きく振りかぶられ、殺意が一直線に走る。


クライはあえて“受け止める騎士”の動きを演じ、目線をそらす。


(乗ったな……)


斧が落ちる寸前、クライは剣を高く掲げて受ける“ふり”をした。


ガキィィン!!


轟く金属音が、闘いの空気を裂いた。


金属音が辺りに響いた――だが、クライは斧を“受け止めた”わけではない。

剣に当てた瞬間、ほんのわずかに角度をずらし、斧の軌道を滑らせる。

衝撃を殺しつつ、わざと後方へ押し流されたように見せかけた。


「ほらよ!」


勝利を確信したように、ダクトが勢いそのまま踏み込んでくる。


しかし。


(お前が“前に出た”時点で……勝負は決まってる)


クライは後退するふりのまま、重心を低く落とした。

ダクトの意識は完全に上――剣と斧の鍔迫り合いに囚われている。


次の瞬間。


「なっ――!」


低い軌道で放たれた足払いが、巨体の足元を鋭く掬った。

騎士団の教本には絶対に載らない。

これこそ、間者が好む“汚い”一手。


ぐらりとダクトの巨体が揺れる。


「クソが……!」


体勢を崩した腹部へ、クライは全身の体重を乗せた膝を叩き込んだ。


「ぐぉっ……!」


息の止まった一瞬、クライの剣が滑り、ダクトの腕を切り裂く。

鮮血が飛び散り、ダクトが一歩後退する。


クライは静かに息を整え、剣を構え直した。


「騎士団が真正面だけで戦ってると思ったか?」


嘲りではない。ただの事実を告げる声音。


「戦場じゃ、勝つために何でもやる。

正面から、正面だけで倒せる相手なんて――ほとんどいない」


その言葉に、ダクトの目に初めて本物の警戒が灯る。


「……てめぇ、騎士のくせに……やり方が汚ぇ……!」


「勝つためにやってるだけだ」


クライは目を細め、一歩踏み込む。


「正々堂々やって死ぬなら、堂々なんて捨てる。

そういう奴らを、嫌というほど相手にしてきたからな」


その声には、静かな怒気と揺るぎない自信が宿っていた。

クライはもう逃げていない。

主導権は、完全に彼の手に移っている。


膝蹴りと裂傷の痛みに後退したダクトは、肩を震わせながら立ち止まった。


「……テメェ……」


噛みつきそうな低い唸り。


「テメェ……よくも……! 騎士のクセに……汚ねぇ真似しやがってえぇぇ!!」


怒号とともに、ダクトの筋肉が膨れ上がる。

怒りで痛覚が吹き飛び、理性のない獣がそこに立った。


「殺す……殺す! バラバラにしてやる!!」


怒号とともに、ダクトの斧が暴風のように振り回される。

地面が抉れ、石片が爆ぜ、空気が揺れる。


だが、クライの表情は微動だにしない。


(キレたな……なら、もう読める)


怒り狂った相手は強い。だが、その分だけ単純になる。

ダクトの攻撃は重いが、大振りで、狂気に任せた直線の繰り返しだった。


クライは右へ跳び、斜めに滑り、

斧の背を剣で軽くはじいて軌道をずらす。

動きは最小限。まるで流れを受け流す水のようだ。


「おおおおおおおお!!」


雄叫びとともに突っ込んでくる巨体。

だが――距離も、癖も、重心も。


クライには、すべてが手に取るように分かっていた。


「そこだ」


小さく呟き、クライは地面すれすれまで姿勢を沈めた。


ダクトが斧を振り下ろす。

クライの頭蓋を粉砕する一撃――


……のはずだった。


剣を縦に構え、刃の側面で斧の柄だけを下へ弾き落とす。


「っ……は?」


視界が揺れたダクトの顔が困惑に歪む。


(俺が“受け止める”と思い込んだな)


クライの瞳が鋭く光った。


大振りの軌道がずれ、空を切ったダクトの上半身がガラ空きになる。

しかし、それでもまだ倒れない。

巨体の勢いそのままに、クライを潰そうと迫ってきた。


普通ならここで剣を突き立てる。

だが――クライは構えなかった。


(こいつ相手に、正面から“決定打”なんて入らない)


だから。


選ぶのは、不意打ち。


ダクトが腕を広げ、掴みに来たその瞬間――


クライは一歩踏み込み、

わざと“捕まるように”胸元へ飛び込んだ。


「捕まえた!!」


勝利を確信したダクトの顔が、狂喜に歪む。


その刹那。


「悪いが」


クライの右手が、滑るようにダクトの顎下へ潜り込んだ。


「これは騙しだ」


拳が顎を跳ね上げ、

同時に膝がみぞおちへ深々と突き刺さる。


「――がっ……!」


呼吸が潰れ、脳が揺れ、巨体がよろけた。


さらにクライは耳元に顔を寄せ、淡々と告げる。


「お前の負けだ」


柄の底で側頭部を叩きつける。

金属ではなく“肉を殴る”鈍い音が響いた。


ダクトの目から焦点が消え、

そのまま――巨体が前のめりに崩れ落ちる。


ドサァンッ。


土煙だけが、後に残った。


クライは倒れた巨体を避け、静かに剣先を下げた。


「……真正面だけじゃ勝てないって言っただろ」


戦いの終わりを告げるように、深く息を吐く。


どさり——

それがクライのものか、ダクトのものかは分からない。

ただその鈍い音が、離れた場所にいるモミジの耳にもはっきり届いた。


地下の空間に響くその音だけで、決着がついたことが分かる。

胸の奥がざわりと波立ち、緊張の糸がさらに張り詰めた。


「向こうは終わったみたいだな」


黒ずくめの男が呟く。

勝敗に興味などないという、冷ややかな余裕がその声に滲んでいた。


その落ち着きが、モミジの胸に小さな苛立ちを生む。


「せやな……そっちが勝ってたら、オレは逃げるしかあらへんな……」


思わず漏れた言葉。

モミジにできるのは、剣の音と気配だけを頼りに、クライの無事を願うことだけだった。


「オレ的には、こっちの仕事より……もう一つの依頼も片付けなきゃいけないわけで」


「……もう一つの依頼?」


モミジの問いに、黒ずくめは薄く笑った。

その笑みには影があり、悪意が静かに滲んでいる。


「お前の尻拭いだよ」


その一言で、モミジの背筋に冷たい汗が流れた。

胸の奥で緊張と恐怖が渦巻く。


「そらぁ……残念やったな。オレがもう、殺してしもうたわ」


無理のある嘘だった。

薄暗い地下にその言葉の輪郭だけが浮かび、空気が冷たく沈む。


「それも、確認すれば分かることだ」


黒ずくめの声は静かで、その静けさのほうが何より恐ろしい。


モミジは喉が張り付いたように乾き、視線を床へ落とした。

だが、意識だけは黒ずくめの動きから逸らさない。

わずかな呼吸、わずかな重心の変化、衣擦れの音……

猫としての直感が、すべてを拾って警告を鳴らす。


黒ずくめは、向こうの決着がついたことを完全に理解していた。

もはや慎重さはない。

その動きは捕食者のそれで、空気を裂くほど鋭く、速かった。


その一歩が踏み込んだ瞬間——

モミジの心臓が跳ねる。


猫の本能が危険の匂いを察知し、

致命の角度がどこから来るかを瞬時に読み取る。

汗が手のひらに滲み、背筋が粟立つ。


「ほんま……かんべんしてくれへんか……」


かすれるような声で懇願しながらも、

モミジは決して目を逸らさなかった。


小声でつぶやくモミジ。

その声に力はない。だが、ワイヤーはすでに役に立たず、頼れるのは反射と本能だけだった。黒ずくめの速さ、予測不能な動きに、計算ではどうにも追いつけない。


黒ずくめの目に、かすかな焦りが光る。

だが動きは荒々しくも正確で、腕の振り、足の運び、微妙にずれるタイミング――そのすべてがモミジの動きを試すように攻めてくる。瞬間ごとに見極めなければ、一撃で倒される危険がある。


湿った空気に呼吸と汗の匂いが混ざり、緊張感はさらに濃くなる。

モミジはひとつひとつの動きを読み、最も危険な場所を避ける。だが、全神経を集中させても、黒ずくめの速さに追いつくのは容易ではない。


「……くそっ」

小さく舌打ちをしながら、モミジは間合いを取り直す。

反射でかわすたび、体の奥底から戦闘の感覚が研ぎ澄まされていく。

腕が、脚が、呼吸が――すべてが戦いに馴染むような感覚。


そのとき、離れた場所からクライの声が響いた。

「おい!大丈夫か!すぐ行く!」


わずかに安堵が胸をよぎる。だが黒ずくめの動きは止まらず、次の攻撃の構えに入っていた。


「あいつ、さっさとやられたようだな。私はここから離れる」



冷淡な笑みを浮かべ、影は地下の闇に溶けるように消えていった。


モミジは唇を噛み、舌打ちしながらクライに叫ぶ。

「クライ!その魔力阻害の術式、破壊してくれや!オレは逃げた奴追うさかい!」


行くべき方向がわかれば、迷いはない。

モミジはルミエルたちの元へ、全力で駆け出す。

闇に潜む影が視界の端に残るが、恐怖や迷いを振り切り、次の行動に全神経を集中させる。


地下の通路を駆け抜け、足元に散らばる瓦礫を避けながら、モミジの心臓は激しく鼓動する。

汗が目に入り、呼吸が乱れる――だがそれさえも、戦いの一部のように感じられた。

光の差す出口が、遠くにぼんやりと見える。希望も、焦燥も、その先にある未来を目指して彼を駆り立てる。


モミジの足音だけが、決意と焦りを震わせながら地下空間に響き渡る。

その背後には、冷酷な影の存在が確かに残ったままだ。


しかし、モミジの瞳には迷いはない。

追う者を追い、仲間を守るために――彼は突き進むしかなかった。

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