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奴隷だった少女は悪魔に飼われる   作者: アグ
扉の向こうの世界

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12/40

水晶玉の光の下で

屋敷を出たルミエルとルベルは、街の中心へと向かっていた。


朝の光が建物の石壁に反射し、街全体を柔らかく染める。


通りには人々の声が響き、露店からは色とりどりの果物や焼きたてのパンの香りが漂っていた。


まだ人混みに慣れないルミエルの手を、ルベルはしっかり握る。


「大丈夫だ。怖がらなくていい」


黒髪のルベルの手は温かく、しっかりした力でルミエルを守る。


その感触に、ルミエルの不安げな表情も少し和らいだ。


通りを歩きながら、ルベルは街のあれこれを教えていく。


「ここが騎士団の屯所だ。迷子になったら、ここに来るんだぞ」


「物を無くしたときは、ここで聞けばいい」


ルミエルは小さく頷き、目を輝かせる。


色鮮やかな果物、揺れる風鈴の音、人々の呼び声。


すべてが新鮮で、心をわくわくさせた。


やがて二人は、小さな占いの館の前に立った。


木製の看板には水晶玉のイラストと「占い」の文字。


小さな窓からは柔らかなキャンドルの光が漏れ、店内は神秘的な雰囲気に包まれていた。 


扉を押すと、中には銀色の髪を肩まで伸ばした若い女性が座っていた。


薄紫色のローブを纏い、知的な輝きを宿す瞳と、わずかな微笑を浮かべた口元が印象的だ。


「いらっしゃい。久しぶりだね」


女性は柔らかく声をかける。


「まさか占いに来たわけじゃないだろ?」


ルベルは少し眉をひそめ、軽く笑みを浮かべた。


「頼みがあって来たんだ」


館内は薄暗く、蝋燭の炎が揺れ、壁に影が揺らめく。


占い師は背を丸め、長い指で水晶玉を回しながらルミエルをじっと見つめた。


「頼みとは、このお嬢ちゃんのことかい?」


声は低く、煙草のけむりのように重い。  


ルベルは頷くだけだ。


「そうだ。」


占い師の目が鋭く光る。ルミエルは思わず身を縮めた。


「珍しいね。人間に穢魔えまが混ざっている。封印はされているようだが、漏れ出している」


ルベルは深く頷く。


ルミエルには何も説明せず、肩にも触れない。


理解できない方が安全だと、彼は考えているのだろう。


「属性を調べて欲しい」


ルベルの声には淡い苛立ちと、理知的な決意が混ざる。


占い師は肩をすくめ、にやりと笑った。


「そっちが目的だったかい、お嬢ちゃん。この水晶に手を置いてごらん」


ルミエルはルベルの顔を見上げ、ほんの少し警告めいた表情に気づく。


小さな不安が胸をよぎった。


指先を震わせながら、ルミエルは水晶に手を置く。


ひんやりとした感触が掌に伝わり、館内の空気が一層引き締まる。


蝋燭の炎が揺れるたび、壁の影が水晶の光に絡むように伸びていった。


水晶玉が淡い光を帯び始める。


水色から緑、そして温かみのある黄色へと移ろい、底に暗い影が漂う。


普通の魔力とは違う、内側から滲む闇――微かに揺れるその存在に、ルミエルは息を詰めた。


占い師の目が光る。


妖しい輝きが宿り、長年の経験から異質な力を即座に察したのだろう。


「このお嬢ちゃん、すごい……」


声に自然と興奮が滲む。


「水、風、光、そして――闇も持っている」


ルミエルは水晶を見つめ、胸の奥で恐怖と好奇心が入り混じる。


闇――得体の知れない力が、自分の中で蠢いているのを感じた。


「普通は光と闇を両方持つ者はいない。相反する性質だからね」


占い師は慎重に水晶を撫でる。


「だが、このお嬢ちゃんには穢魔えまがある。闇の適正があっても不思議ではない」


ルミエルの背筋に小さな震えが走る。


穢魔えま――” その言葉だけで、自分の中に眠る異質な力が暗示される。


まだ理解できないけれど、世界の常識とは違う何かを抱えているらしい――。


占い師は水晶を見つめながら小さく呟く。


館内の空気はさらに冷たく締まり、蝋燭の炎が揺れるたび、壁の影が光と闇に引き寄せられるように伸びていった。


ルミエルは無意識に手を握りしめ、息を整える。水晶に映る力の片鱗が、抗えない存在感を示していた。


その瞬間、ルミエルの中の小さな不安と好奇心が、光と闇、冷たさと温かさの混ざる水晶玉の色彩のように、微かに揺れた。


薄暗い占いの館で、占い師はルミエルとルベルを交互に見つめる。


「人間であるお嬢ちゃんには、少し気をつけてやりなさい。**穢魔えま**なんて、希少も希少。それも…」


言葉には危険と尊さが入り混じった重みがあった。


その時、ルベルが静かに遮る。


「分かってる。しかし、光にも適正があるなら…上手くいくかもしれない」


占い師は一瞬ルベルを見つめ、ゆっくりと頷く。


長年の経験で、彼の目に確かな覚悟を見たのだろう。


「私は人間だが、そっちの事情に首を突っ込む気はない。ただ、嬢ちゃんにはこれを渡そう」


占い師は袖をはらい、小さな箱を取り出す。


中には魔法石が埋め込まれたペンダントが光を受け、かすかに輝いていた。


「これは…封印の手助けをしてくれるものだ」


差し出されるペンダントに、ルミエルは思わず手を伸ばしかける。


しかしルベルの顔を見て、一呼吸置いた。


ルベルは微笑み、そっと彼女の手を導く。


ルミエルは警戒しながら指先をかざし、ペンダントを受け取った。


冷たい金属と、魔法石の微かな振動が掌に伝わる。


占い師は水晶玉とペンダントを交互に見つめ、静かに言った。


「これで少しは力を安定させられるだろう。ただし、扱い方を間違えれば危険は変わらない」


館内の空気は静まり返り、蝋燭の炎が揺れる。


ルミエルの胸には恐怖と期待、そしてわずかな希望が入り混じる。


ルベルは何も言わず、横で静かに見守る。


手の中のペンダントが微かに温かく光り、ルミエルはその力を受け止める覚悟を少しだけ持てた。


占い師は最後に小さく言った。


「今日はあまりウロウロせず、早めに帰ることを勧めるよ」


ルベルは深く頷き、静かに答える。


「心に留めておく」


代金を置き、ルミエルの手を優しく取ると、二人は占いの館を後にした。


外の冷たい空気が、館内の重苦しさを洗い流すように感じられる。


ルミエルは手の中のペンダントをじっと見つめ、微かに笑みを浮かべた。


どうやら少し気に入ったらしい。


「無くしたら大変だ。首にかけてやる」


ルベルはそう言って、そっと彼女の首にペンダントをかける。


冷たい金属が胸元で光を受け、微かに輝いた。


その瞬間、ルミエルは自然とルベルの袖を引っ張る。


反応したルベルが穏やかに尋ねた。


「さっきの話が気になるのか?」


ルミエルは小さく頷く。


「この話は帰ったら話すとしよう」


ルベルは優しく言い、二人は静かに歩き出した。


ペンダントの重みと光が、ルミエルにほんの少し安心感を与えていた。


「この前、目的のノートでも買うか」


ルベルの声に、ルミエルは嬉しそうに小さく頷く。


賑やかな街の中を歩きながら、人々の声や屋台の香りが街角に溢れ、ルミエルの心も少し弾むようだった。


ふと、家の壁に立てかけられた封筒が目に入る。


落ちているというより、誰かが意図的に置いたような印象だ。


ルミエルは気づき、思わずルベルの手を振り解いて封筒を拾う。


中を覗くと、難しい文字が並んでいた。


ルミエルには全部は読めなかったが、はっきりと「薬剤リスト」と書かれているのが分かる。


「落とし物かな…」


ルミエルはジェスチャーでルベルに「屯所に届けよう」と伝える。


ルベルは封筒に目をやり、静かに頷いた。


「落とし物か…そうだな。買い物が終わったら届けるとしよう」


二人は再び雑貨屋へ歩き出す。


封筒の存在が気になるものの、街の賑わいとルミエルの笑顔が、ほんの少しだけ日常の安心感を二人に与えていた。


雑貨屋の静かな棚の前で、ルミエルは一冊ずつノートを眺める。


表紙には花の絵や、ふわふわの動物イラストがあしらわれ、どれも魅力的で目が釘付けになる。


ページをめくるたび、柔らかな紙の感触と淡い香りが指先に伝わり、小さな心が喜びで満たされる。


文字を書く余白だけでなく、ページの端の装飾や小さな絵柄も、ノートの楽しさをさらに引き立てていた。


「決められそうか?」


ルベルの落ち着いた声が背中に届く。


ルミエルはノートから目を上げ、ルベルをじっと見つめる。


その瞳はキラキラと輝き、口元に小さな微笑みが浮かぶ。


小さく頷き、ノートを胸に抱きしめるその仕草だけで、決意と喜びが伝わった。


ルベルは静かに見守り、微笑む。


「よし、決めたならそれで行こう」


ルミエルはノートを抱えたまま棚を離れる。


街のざわめきと屋台の香りに包まれながら、二人は雑貨屋を後にした。


小さな宝物を手にした満足そうなルミエルと、それを優しく見守るルベル。


そんな何気ない日常のひとときが、穏やかに、確かに流れていった――。

少しずつ謎が増えていきます。

これからの展開も楽しみにしていただけたらと。

是非、コメント、評価よろしくお願いします。


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