あなたのぬくもりの中で4
「ん……んんっ……!」
彼は口を塞いだまま私を反転させて組み敷くと、リップ音を鳴らして真剣な瞳を向けた。
「嫌か……?」
「えっ……」
「もし嫌なら、今言ってくれ。これ以上進めば……もう、俺は自分を止めらそうにない。いや、今でも止めれるかどうか……」
ダリウスは、必死に自制を保っているようだった。
そんな姿まで愛おしい。
そう思った。
だから私はこう口にした。
「……嫌じゃ……ない、よ」
それどころか、本当は心の底から、彼が欲しかった。
次の瞬間、ダリウスのガラスのような赤い瞳が微かに震えた。
「お前のすべてを、俺だけのものにしたい」
掠れた声で、ダリウスが懇願するように言った。
こんなにも私の事……
そう思うと、嬉しくてたまらない。
「そんなの……ずっと前から、あなただけのものだよ」と微笑むと、彼の目が緩んだ。
「リシェル……できるだけ優しくしたいけど……」
そう言って、彼は私の頬にそっと触れ、後頭部を優しく抱き寄せた。
シーツの擦れる音が、やけに大きく聞こえる。
「……可愛すぎて、理性が持たないかもしれない……」
私の上に跨るダリウスが、余裕をなくした瞳で私を見つめていた。
その甘く掠れた声が、耳の奥まで震えて響く。
この瞬間、彼にこんな顔をさせたのが自分だと思うと、胸の奥に言葉にならない想いが溢れた。
「……いいよ」
ほんの一瞬、彼の目が見開かれた。
「リシェル……」
「ダリウス……」
『滅ぼしの子』――
その言葉が、決して過らなかったわけじゃない。
でも、そんな不確かな伝説なんてどうでもよく思えてしまうほどに、私の頭の中は彼がいっぱいで埋め尽くされていた。
そうして私たちは、禁忌の恋に堕ちていった……
小鳥のさえずりが耳に入り、ふと目が覚めた。
柔らかな朝日がカーテン越しに差し込み、心地よい光が頬をくすぐる。
一度眉を寄せ、ゆっくりと瞼を開いた。
すると――
「おはよう」
私の目の前には、優しい光に包まれながら上半身裸で微笑むダリウスの姿があった。
「……っ!!」
一度瞬きをしてから、飛び起きる。
「……えっ!?」
次の瞬間、自分の肌に布が触れていないことに気づき、自分の姿を確認する。
直後、声にならない悲鳴を上げた。
「きゃぁぁぁぁぁ――!!」
慌てて布団を引き寄せて隠れると、彼はククっと笑った。
すぐに昨夜の出来事が鮮明に蘇る。
いつも冷静な彼が見せる、熱を帯びた赤い目、そして優しく私の体に触れる指先……
「……っ!!!」
恥ずかしさで、布団に顔を埋める。
すぐに、くくっ……っと笑う彼の声が耳に届いた。
そっと布団の隙間から彼を覗くと、ふいに目が合う。
そうだ……私、昨夜……
昨夜のできごとを思い出すと、一気に体温が上がる感じがした。
「真っ赤」
「う、うるさい!」
もう!余裕な顔をして……
「……っ!」
こういうやり取りまでもむず痒い。
恥ずかしくて、そして……愛おしい時間……
そう思った時――
彼の腹部に、深い傷痕が見えた。
「えっ……」
転んだ傷じゃない。
まるでムチで打たれたような、痛々しい痕。




