あなたのぬくもりの中で2
私たちは同時に扉を振り向いた。
「ダリウス・ヴァルシオン様。天魔鑑定所からのお手紙が届いています」
その声に私は飛び上がり、慌ててベッドの影に隠れた。
……天魔鑑定所?
確か、天界や魔界、世界中の物を公平に鑑定するという公的組織よね。
宝石の真贋、筆跡、魔力や血筋等まで、様々なものを判定できるって聞いたことがある。
そこで出た鑑定結果は、覆ることがないほどに正確だという。
でも、世界に1か所しかないから、鑑定までに何年も待たされるんだとか。
でも、なんでそんな所から?
ダリウスは、そんな私の姿を見て大きなため息をつくと、ドアを開けた。
「ダリウス・ヴァルシオン様、こちらになります。受け取りのサインを」
「ああ……」
「では、確かにお届けいたしました。夜分遅くに失礼致しました」
バタンと扉が閉まり、すぐに鍵がかけられる音がした。
「はぁ……」
ダリウスがため息をつきながら戻ってくる。
「もう行ったぞ」
ベッドの影に回ってきたダリウスは、ベッドの影に潜むようにしゃがむ私をジッと見下ろす。
「ドアの前の次はそこか」
軽く茶化すような口調に、私は思わず口をへの字に曲げた。
中断されてしまったけど、まだ全然納得できない私は、先ほどの話を蒸し返す。
「私……信用されていないんだ……」
「そんな訳ないだろ」
「だって、信用できないから隠してるんでしょ!?私、勉強は出来るけど、どっちかといえばドジな方だし?こうって決めたら突っ走ってしまう所もあるし……」
「自覚はあったんだな」
鼻で笑われ、目を吊り上げる。
すると、ダリウスは静かにため息をつき、私の背中側にあるベッドに腰を下ろした。
「でもさ、それは言い方の問題で、お前のいい所でもあるだろ」
そんな言葉に、眉が微かに上がるのを感じた。
「夢のために必死で努力してるお前がふとドジを踏む姿も、目標の為にいきなり突っ走っていく姿も……そういうところもひっくるめて、全部お前の魅力だろ」
そう言いながらダリウスは、私の頭にポンポンと手を乗せる。
「俺にとっては、どれも可愛いリシェルでしかない」
微笑みながらの一言に、顔にボッと火が付く。
「あ、赤くなった」
慌てて両手で頬を覆い、顔を逸らすと、ダリウスはいたずらっぽく笑った。
「か、からかわないで」
「別にからかってない」
チラっと振り返ると、ダリウスは立膝をしていた。
さっきまでの表情はそこにはなく、どこか思いにふけるように黙り込んでいた。
しばらくして、ダリウスは諦めたようにため息をつく。
「……まぁ、勘づいていたのなら、気になるよな……」
ダリウスは、静かに私に目を向けた。
「絶対……誰にも言うなよ?」
「えっ……」
「って言っても……お前、すぐ顔に出るからな」
俺も出てたみたいだけど、と続けるダリウスに、私は思わず声を上げた。
「で、出てないし!」
「はいはい。その自覚ないのが1番怖いんだよ」
「うっ……」
「まぁ、でも俺もリシェルへの隠し事は極力避けたかったから、言うよ」
ダリウスは、まっすぐに私を見つめた。
そして次の瞬間――とんでもない事を言ってのけた。
「実は俺……『魔力が感じれる』術を使えるんだよ」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか理解できず、私はポカンと口を開けた。
まさか……悪魔の中でも、ほんの数名しかいないと言われる、あの魔法の使い手。
それが、ダリウスだっていうの!?
「えぇ~~!!?」
私は驚き叫んでしまい、慌てて口元を覆った。
「魔力感知は、ターゲットもなく使うには莫大な魔力が要る。
そんな無駄な魔法を、わざわざ寮の中で使う奴なんていない。だから、さっき『大丈夫だ』って言ったんだ」
その説明に、妙に納得してしまった。
「そ、そうなんだ……」
信じられない。ダリウスが……
「ずっと……不安にさせていたみたいで、悪かったな」
彼の言葉に、私は静かに首を振った。
「っていうかさ……やっと二人っきりになれたのに、いつまでそんな所にいるんだ?」
そう言われて、再び緊張が身体に走った。
「だ、だって……」
次の瞬間――
グンッ!
「きゃっ!」
強い腕に引き寄せられた瞬間、バランスを崩してそのまま倒れ込む。
気づけば、私は彼を組み敷く形になっていた。
「……っ!」




