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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
許されぬ恋のはじまり~終盤~

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あなたのぬくもりの中で1

 夜――


「珍しく遅かったな」


 待ち合わせ場所に着くと、腕を組んでこちらを見つめる少し不機嫌そうなダリウスがいた。


「ごめん……」


 彼の部屋に行っていいのか、さっきまで迷っていて遅くなった。

 今ここに来たけれど、まだ迷いが完全に消えたわけじゃない。


 その時、彼の手元にかかる黒い布に目がとまった。



「……何それ?ローブ?」


 季節外れの悪魔の制服。

 黒くて重たげなそのローブは、寒い時期にしか羽織らないはず。

 今は、もうとっくに薄着の季節なのに、どうして今……



「フードを被れば、誰にもバレないだろうと思って」

 そう言いながら、彼は私の肩にローブを掛け、フードをぐっと深く鼻先まで下ろした。


 その瞬間、胸の奥に妙な既視感が走った。

 何かを思い出しそうで、でも思い出せない。


 そんな感覚に囚われているうちに、気づけば――彼の部屋の前に立っていた。




 彼は当たり前のようにドアを開けると、意外なほど普通の部屋が目に入った。

 不気味な装飾や魔界特有の禍々しさ。

 そんな想像とは違い、そこはシンプルで落ち着く空間が広がっていた。


「ほら、入って」

「……う、うん」



 生まれて初めて男性の部屋に入る。しかも悪魔の部屋に。

 一年前の私なら、絶対に信じなかっただろう。


 彼は肩からジャケットを脱いでハンガーに掛け、ふと振り返る。


「いつまでそこに突っ立ってるんだ」

 その言葉に、体がびくりと震えた。


 その声に、体がびくりと震えた。

 ここまで来たのに、まだ不安は拭えない。さっき、ここに来る途中で気づいた不安も――


「ねぇ、ダリウス」

「ん?」

「こうして私がダリウスの部屋に来たこと、誰かにバレたりしないのかな?」

「大丈夫だ。来る道中、誰にもすれ違ってなかった。それにその格好だ。もし見られたとしても誰も疑わない」


 私は悪魔用の黒いフードをそっと外し、もう一度口を開く。



「でも、悪魔には魔力を感じ取れる人がいるんでしょ?」


 彼はわずかに目を見開いた。



「……ああ。そうだな」

「だったら、天使が、悪魔の寮なんかにいたら、すぐバレるんじゃないの?」


「大丈夫だ」


「どうして言い切れるの?魔力の感知は『術式』じゃなく『魔法』でしょ?なら、寮でも使えるじゃない。

 もし今ここでその魔法を使われたら『悪魔の寮に天使が来てる!』って――」


「そんな事にはならない」

 彼は呆れたよう肩をすくめる。


「その術を使えるのは、上級悪魔の中でもほんの一握りだ。しかも、基本は目視だ。

 感じ取れるほどの奴なんて、全悪魔の中でも数人しかいないと言われている」


 そんなに少ないんだ。

 だから、その能力があれば魔王や魔王補佐に選ばれやすいのね。


「詳しいのね」

「……そうだな」

 と、短く答えて目を逸らした。


 胸の奥に、小さな違和感が灯る。


 まただ……



「……ダリウス?」

「ん?」

「ねぇ。今、何か隠したでしょ?」

 そう聞くと、彼の眉がピクリと動いた。


「やっぱり!」

「何が」


「今絶対隠したでしょ!」

 私はダリウスに向かってズンズンと歩み寄る。


「隠してないって」

「隠したわよ!これは女の直感よ!」

 腰に手を当てて詰め寄ると、またしても気まずそうに目を逸らすダリウス。


 そんな仕草に、胸がズキリと痛んだ。



 時々、ダリウスはこうして何かを隠しているような態度を見せる。

 聞いても、決まってさっきみたいにはぐらかされる。



 きっと、その秘密は、私への裏切りとかじゃない。


 事件の進捗しんちょくや、私の知らない悪魔の話。

 そういう時にしか、あの違和感は生まれなかったから……


 どんな理由があったって、隠されるたびに心が痛くなる。

 信用されていない気がして、なにより秘密にされることがたまらなく寂しい。




「……もういい。帰る!」


 私がきびすを返して扉に向かった瞬間、彼が私の腕を掴んだ。


「待てよ!」

「離してよ!」


 ダリウスの顔に、驚きと焦りが浮かんでいた。


「ダリウスは、そうやってすぐ私に隠し事ばっかりする!今までだってそういうこと、何度もあったよね」


「えっ」

「まさか、バレてないとでも思ってたの!?」


「私って、そんなに頼りない……?」

「いや、頼りないとかじゃない……」





 彼がそう口にした時――


 コンコン。

 部屋にノックの音が響いた。

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