許されぬ恋のはじまり~終盤~1
「なあ聞いたか?天使と逃げた悪魔がいるらしいぜ」
「ああ、魔王様が指名手配したんだろ?顔が貼ってあったの見たよ。なんかあの顔、最近この辺で見た気がするんだけどなぁ」
「え?!本当か?」
窓の外から、そんな声が聞こえてきた。
私はそんな会話に青ざめ、慌てて窓を閉めた。
「……やばいな」
ダリウスは顔をしかめて髪をかき上げる。
「もっと田舎に行くしかないな。どこまで指名手配が流れているのか、念のため情報を確認してくる」
そう言って、ダリウスはフードを深く被り、部屋を出ていった。
私は残された部屋で、すぐに少しずつ増えた荷物をまとめ始める。
すると、ある事に気付いた。
「……荷物、こんなに少なかったんだ」
今思えば、あの時、私たちは身ひとつで逃げてきた。
だから、着ていた服と、いくつか身に着けていたアクセサリーを売って、なんとか今日までやりくりしてきたけれど……もう手元には換金できるようなものは何ひとつ残っていない。
こんな状態なのに、指名手配までされるなんて……
やっと慣れてきたと思っていた、ここの生活。
それも、もう終わらせないといけない。
次はどこに行くの?
田舎なら見つからないの……?
けど、そんな保証なんてどこにもない。
――こんな生活、望んでたわけじゃなかった。
でも、彼のいない生活なんて考えられない。
私はただ、彼と手を取り合い、笑っていたかっただけなのに……
理想を思い描くほど、涙がこぼれそうになってしまう。
私は涙をグッと堪えて、荷物をまとめた。
その時、勢いよくドアが開いた。
「あれ?早かっ……」
でも、そこに立っていたのは、ダリじゃなく――
「久しぶりだな。リシェル……いや、リィって呼んだほうがいいか?」
――魔王だった。
一瞬にして、身体が凍りつく。
手にしいていた衣類が滑り落ち、足元に落ちる音さえ、遠くに感じた。




