許されぬ恋のはじまり~中盤~4
「リィ!!」
あの声が、重く閉ざされた扉を吹き飛ばし、空間を裂くように響いた。
「ダリ……!」
ダリは魔王に抱き寄せられて泣いている私の姿を見た瞬間、鬼のように目を吊り上げた。
手をかざすと、魔王の手を弾き、一瞬で部屋の端に吹き飛ばした。
壁に張り付けられるような姿になった魔王の身体には、ただの悪魔には出せない程に、とても大きな術式が浮かび上がっていた。その速さは、魔王をも上回るように見えた。
すぐに私の元に駆け寄るダリは、そのまま私の肩を強く抱き寄せた。
「大丈夫か!?」
その瞬間、ぶわっと涙が溢れてくる。
「ダリ……」
「貴様、魔王である俺に……」
魔王はそう呟くと自分自身に解除魔法を放った。
すぐに身体に浮かび上がっていた術式が綺麗に消え、首を鳴らして悍ましい顔で睨みつけて来た。
「魔王だろうと関係ない!リィに指一本でも触れた時点で……敵だ!」
ダリの言葉に魔王は顔をしかめた。
「そうか……敵か……」
魔王は喉を鳴らして笑うと、さっと床に手をかざした。
床に大きな魔法陣が現れると、そこから悪魔の使いが次々と出現し、私たちはあっという間に包囲されてしまった。
「こいつらを捕えよ!」
魔王が一声を放った瞬間、悪魔の使いたちが一斉にこちらへ飛び掛かってくる。
「こっちだ!」
ダリは私の手を強く引き、悪魔の間をすり抜けるように宙へと飛び上がった。
直後、私達の真下でぶつかり合う悪魔たち。
そんな様子を目にした瞬間、ダリはそのまま私を抱き上げ、大きな窓へと一直線に向かった。
そして外へと出た瞬間、凄い勢いで空高く舞い上がった。
「……っ!」
あまりの勢いに、私は思わず彼の服にしがみつく。
風が容赦なく顔に叩きつけてきて、目も開けていられない。
息ができない。
速すぎる……!
そんな私の様子を察したのか、彼は飛びながら、自分のマントでそっと私を包み込むように顔付近を覆った。
「完全に撒くまで、こうしておけ」
「……うん」
完全に撒くまで……
時々マントの隙間から見える彼の顔は険しい。
今、どれだけの者が私たちを追ってきているんだろう。
不安でどうにかなってしまいそうだ。
それから、どれくらいの時間が経っただろう。
逃げ切れるようにと心の中で何度も何度も祈っていると、ふと強い風が吹いて、顔にかかっていたマントがズレた。
その時に瞳に映ったのは――見たことのない景色。
空は夕焼けのような優しさではなく、赤黒く濁ったような、どこか不穏な色。
まるで血と闇を混ぜたような空だった。
足元に広がる景色は可憐な花も、豊かな緑もどこにもなく、鋭く尖った岩肌、乾いた砂と石ばかりの地面が広がっている。
遠くの空では、雷鳴が地鳴りのように響いていた。
どこもかしこも、光まで吸い込まれてしまいそうな、重たい気配が漂っていた。
しばらくして、視界の先に町らしき建物が見えてきた。
ダリウスはピタリと宙で動きを止めると、私にかけていたフード付きローブを深く顔に被せてきた。
「え?なに?」
「その髪色は目立つ。隠しておけ」
「ねぇ。もしかして、ここは……魔界なの?」




