許されぬ恋のはじまり~中盤~3
……なんてこと。
なんで今まで『絶対バレない』なんて、根拠のない自信を持っていたんだろう。
同じ担当部署だし、天使と悪魔だから疑われる事なんてないと、と安心しきっていた。そんな過去の自分を責めたい気持ちになった。
すると、魔王は顔を歪めて笑った。
「天使は規則に酷く従順なのに……君は違うようだな」
そう言うと、魔王は私の顎をグイっともちあげた。
彼と同じ赤い眼が、まるで私を吟味するように見えた。
でも、魔王の真意が全く見えない。
捕られるなら、一瞬で済む話。
なのに……
「この事は黙ってやろうか」
「……えっ?」
何?今……
「その代わり。俺の女になれ」
その言葉に、顔の筋肉が固まった。
「……っ、な、何を言って……」
からかってるの?
私は天使なのに……
「お前に興味がわいた、と言えば分かるか?」
顎に添えていた指が、そっと私の下唇をなでる。
「離して下さい!」
そう言って離れようと暴れるけど、腰を掴まれていて叶わない。
「いいぞ。ただし……俺の女になると認めればな」
「じょ、冗談はやめてください。私は天使ですよ!」
「それがなんだ?悪魔と関係を持つ天使のくせに」
「……っ!関係なんて持ってないです!」
「なるほど。一線は超えていないから大丈夫だと……そう考えていたのか?」
図星を突かれてギクリと胸が鳴る。
「はたして、それで納得する奴は天界にどれくらいいるんだろうな?
お前のような例外は、天界からして不要なんじゃないか?」
魔王はククッと喉を鳴らし、私の背をなぞるように、服の上から腰へと手を滑らせた。
その指先はゆっくりと脇腹をなぞり、腹部へ移動した。
そして、下腹部を優しく撫でた。
耳元に顔を寄せた魔王が、熱を帯びた吐息をわずかに吹きかける。
「……んっ」
そして甘く囁いた。
「あの伝承の真偽に、興味がないか?」
……伝承?
まさか、世界を滅ぼしかけたという……滅ぼしの子の事?
天使と悪魔が愛し合い、交われば生まれるという禁忌の存在。
魔王は、それが本当なのかを確かめたいの……?
正直、彼と付き合っている関係上、その事に関して興味がないと言えば嘘になる。
でも、実際に3000年ほど前に、滅ぼしの子のせいで世界が滅びかけた。
その惨事を裏付ける記述はいくつもある。
なのに、それを確かめるだなんて……正気なの?
「興味ありません。私は、魔王様の女にはなれません」
「そうか。では――お前らの関係を公表するまでだ」
「っ!」
「君たちの関係を、俺が明かせばどうなるか……分かるだろう?」
圧力さえも感じるような、真っ赤な瞳に、怯える私が映り込む。
それは、私たちの人生の終わりを意味していた。
「やめてくださいっ!」
悲鳴のような声が出た。
じわりと目頭が熱くなってくるのを感じた。
「そうなれば……逃げたとしても、ひとたびこの世は君たちの敵となるだろう。……君たちは、終わりだ」
そんなの、想像するまでもない。
私の家紋は破門され、私達は追われる身となるだろう。
悪魔と天使が同じ空気を吸うだけで、汚れるとも言われているこの世の中。
もう、まともに生きていくのは難しくなるのは目に見えている。
そして捕まれば……一生、牢獄行きになるかもしれない。
それは、私だけじゃなく、彼も……
「お願いします……公表しないでください……」
ついに涙がこぼれ落ちた、その時――




