許されぬ恋のはじまり~中盤~2
「えっ……?何を……おっしゃっているのですか?」
資料のことで聞きたいことがあるんじゃ……予想外の問いに、胸がドクリと跳ねた。
手にしていた資料を、ぐっと胸の前で抱きしめる。
「隠さなくていい。君の熱い視線を、俺に隠せるとでも?」
「っ……言っている意味がわかりません」
嘘っ……。まさかバレてる!?
……ううん。
この質問の仕方。まだ確信には至っていないはず。
「ふぅん……白を切るつもりか。なるほど」
もう何もかも知っている。そんな風に見える魔王の言動に、私は戸惑いを隠せずにいた。
「申し訳ございません。まだ仕事が残っておりますので、こういったお話なら失礼させていただきます」
私は逃げるように頭を下げ、扉の方へ向き直ろうとした時、視界の端で魔王が手をかざすのが見えた。
次の瞬間――
「きゃっ!」
瞬く間に足元に魔法陣が浮かび上がり、私の身体は強力な力で魔王の胸元に吸い寄せられた。
手にしていた書類が、突風にあおられたように宙へと舞い上がっている。
ほんの一瞬の出来事に、目を大きく見開いた。
さすが魔界の王。
通常、魔法陣を発動させるのに20秒以上、遅い者だと何分もかかる。
それを、瞬きほどの速さで発動させるだなんて……
「俺が、逃がすとでも思ったか?」
そう言いながら、魔王は背後から私の首元に触れた。
長い爪が首筋にかすかに食い込む。
まさか私――殺される!?
完全にバレてるの!?
でも、だとしたら……なんで!?どこでバレたの!?
数えきれないほどに落ち合った資料室。
ダリウスは、いつも周囲に誰もいないことを確認してくれていた。
彼は魔力を感知する特殊な魔法を使い、事前に誰かが近くにいないかを確かめてくれていた。
なのに、どうして……
頭が真っ白になっていく私の肩を掴み、魔王は強引にこちらへと身体を向けさせた。
「奴の能力を頼っていたんだろ?それで自分たちの密会がバレないとでも思ったか?」
その言葉は、あまりにも図星で、最大限に目を見開いてしまう。
魔王の瞳が、そんな私の動揺を見透かすように細められる。
「浅はかな奴だ」
やっぱり……!完全にバレてる!
私は魔王の言葉に心臓が凍り付き、息が浅くなった。
全身がガクガクと震えだす。
「君も知っているはずだ。魔力を感知する能力は奴のものだけじゃないということを。極めて少数の悪魔にしか使えないが、他にもいる。
そいつらの力を使えば、近場であれば誰がどこにいるのか分かる……もう、なんで俺がこんな質問をしたのか……分かるな?」
魔力を感知する魔法は、使ったその瞬間の状況しか分からない。
しかも、発動にはかなりの魔力を消費する。
だから、彼はいつもこう言っていた。
『あれは何度も気軽に使えるもんじゃない。リィと会う直前だけ、みんなの位置を確認してる』
つまり、私たちが会っている最中に、誰かがその魔法を使っていたら――
資料室に、『天使と悪魔が二人きりでいる』という事実が簡単にバレてしまう。
私たちほど頻繁に行動を共にする天使と悪魔はいない。
そんな二人が頻繁に密室にいたら――当然、怪しまれる。
術式にはいろんな種類があるし、少しでもおかしいと思われたら簡単に調べられてしまう!




