許されぬ恋のはじまり~序章~5
「これで見られる心配はない」
そうよね。まだ業務時間内だから……
「じゃあ、答えを聞かせてもらおうか」
「う、うん……」
私はギュっと手のひらを握り締め、ゆっくりと口を開ける。
「……ずっと、考えてたの。自分の立場のことも、あなたのことも、全部……」
彼の目が、まっすぐに私を見ていた。
「正直、今でもまだ迷ってる。悪魔のあなたに、こんな事言っていいのかなって……。でも……」
なぜか視界が揺らいでくる。
そんな私に心配そうに眉を寄せる彼。
毎日毎日、本当に、死ぬほど考えた。
でも、それでも答えが出ない。
なのに頭からあなたが消えた事なんて1度もない。
あなたの事しか考えられない。
仕事をしてる時だって、寝る前でさえも……
天界で逸材と呼ばれている、昔から憧れだった天使との婚約が決まった時でさえ……今では絶望でしかなかった。
それはもう、答えが出ているのも同然だった。
私は――
「……あなたが好き」
彼は、私の言葉を聞いた瞬間、静かに口を開ける。
「……本当か?」
その声は意外なほど冷静で、まるで私の言葉を信じていないかのようだった。
「うん……。本当よ。こんな嘘、つくわけないじゃない」
そう口にした瞬間――彼が駆け寄ってきて、私を強く抱きしめた。
「……っ!」
骨が軋むほど、彼は強く抱きしめてきた。
そのぬくもりが、私の肌の奥にまで染み込んでくる。
彼のにおいが胸いっぱいに広がると、それだけで息が詰まりそうになるほど、想いがあふれ出した。
ゆっくりと身体を引き離した彼と、目が合った。
あまりにも距離が近すぎて、私は一度、視線を落とす。
けど、再び見上げたその瞳には
――熱と決意が宿っていた。
「信じられない……、もう一度言ってくれ」
低く、押し殺すような声だった。
「えっ……?」
私は戸惑いながらも、小さく呟き、顔をさらに熱くさせる。
「あ……あなたが好き……」
その瞬間、彼の瞳の奥が、わずかに揺れた気がした。
「どうして……俺の気持ちを伝えた時、酷く辛そうな顔をしたのに……」
「え?あれは……天使という立場を考えて、自分の気持ちを言っていいのか分からなくて……」
「……なんだ。じゃあ、あの時には俺らは両想いだったんだな」
……両想い……
そんな言葉が私の胸を温かくさせた。
ふっと笑った彼が、私の頬にそっと触れる。
切れ長の目が、じっと私を見つめてきた。
次の瞬間、彼の顔が私の視界をいっぱいに満たし――




