許されぬ恋のはじまり~序章~3
思考が追いつかず、小さな不安がせり上がる。
彼は何も言わず、ゆっくりと歩を進めてきた。その足音が妙に大きく聞こえる。
「な、なんですか?資料なら、まだ見つかっていませんよ」
そんな話を口にしながら再び本棚に向き合った時、自分のすぐ真後ろで足音が止まった。
ふと振り向こうとした時――視界の端で彼の腕が伸びてきた。
ドンッ!
気付けば彼は、私を挟み込むように本棚に腕をついていた。
「っ……!」
驚きのあまり、すぐに彼を見上げる。
すると、美しい顔立ちに赤い瞳の彼が瞳いっぱいに映り込んだ。
ドクンと心臓が鳴る。
慌てて顔を伏せるも、心臓がバクバクと激しく音を立て続けている。
な、何……?
慌て戸惑っている私に、彼は囁くように言葉を落とした。
「その資料……存在しないから」
「……え?」
存在、しない……?
どういう事?
彼が何を言っているのか分からなかった。
「そんな資料はない。お前をここに呼ぶ為の口実にしただけだ」
「なっ……!」
彼のそんな言葉に、心臓が嫌な音を立て始める。
「ど、どうして……?」
「お前と、誰の目も気にせずに話せる時間が欲しかった」
彼の瞳が、赤くゆらめいていた。
話せる時間……?なんで?
「もっと、お前と近づきたかった……」
えっ……?
突然のその言葉に、動揺が隠せない。
「……でも、天使と悪魔がそんなこと、許されるわけがない。だからずっと、自分の気持ちを抑え込んでいた」
自分の……気持ち……
「……それでも、どうしても消せなかった。そればかりか……どんどん溢れて来て……」
彼の声が、かすかに震える。
「お前が……好きだ」
真っ赤なルビーのような瞳が、私を求めるように揺らいだ。
「……え……?」
「お前と同じ担当に任命された時、正直動揺するくらいに嬉しかった。思えば、それよりずっと前からお前の事……」
「う、嘘っ……」
「嘘なんかじゃない!会議中も、お前を目で追ってばかりだった。多少は気付いてたんじゃないか?」
「そんな……」
どう返せばいいのか分からなかった。
確かに思い返せば、会議中よく目が合っていた。
そのたびに目を逸らして……なのに自然と目が行くと、また目が合って……そんなことを繰り返していたように思う。
たまたまだと思っていたのに……
彼の言葉に、胸の奥が熱くなって嬉しくてたまらなかった。
でも、そんな気持ちは言えない。
私が時々感じていた気持ちも……
だって、私は『天使』で、彼は『悪魔』だから。
「お前はどうなんだ?」




