赤い瞳、黒い翼との出会い2
なぜか、そう思った。
悪魔を見るなんて、今日が初めてだ。
絶対に知っているはずがないのに、まるで何度も見た光景のように、心の奥までざわめいていた。
「……誰?」
自分でも気づかないうちに、そう呟いていた。
すると、彼はゆっくりと振り返り、真っ赤に燃えるような瞳をこちらに向けた。
私がその姿に釘付けになった時、校内に鐘が鳴り響いた。
…………
……
「あの悪魔は何だったんだろう」
鐘が鳴ったから、逃げるようにあの場を後にして講堂に来たけど……
今もまだ胸の奥がざわついている。
こんな事、初めて……
私は無意識に、胸元をぎゅっと押さえた。
するとすぐにアナウンスが流れる。
「それではこれより、入学式を始めます」
入学式は、天界でも歴史のある大講堂で行われた。
白を基調とした豪華な建築物。
高い天井には美しいステンドグラスがあり、陽の光が差し込むたびに、まるで神の祝福のように床を彩っていた。
でも、今日この場にいる誰もが、普通の入学式とは違う『何か』を感じてるだろう。
それは、私と同じ白い羽を持つ新入生たちの中に、漆黒の翼を持つ者が混ざっているという事……
天使の白い羽と、悪魔の黒い羽。
それだけでも十分、異様な光景だった。
なのに、それをさらに強く印象づけたのは――
「それでは、入学試験でトップの成績をおさめたダリウス・ヴァルシオンの挨拶です」
広い講堂に響き渡る司会の声の後、一瞬静まり返った講堂に、コツコツと靴音が響く。
入学前、周囲からは『リシェルが首席代表になるだろう』と言われていた。
でも、壇上にいるのは私ではなく――
「……あの時の、悪魔?」
私は目を見開いた。
今壇上に立っているのは、先ほど見たあの悪魔だったからだ。
悔しい!
悪魔に負けるなんて!!
「さすがヴァルシオン家だな……」
周囲の悪魔がそう呟くのが聞こえた。
悪魔の家柄については全く知識がない。けど、言い方からして貴族階級の家柄なのだろう。
だとしても――
ほんのひと月前までは、ここは天使だけが通う天界一の学校だった。
その首席の座を、悪魔が勝ち取った。
平等な審査結果をもとに出された成績なのだろうけど……
それでも、この結果が今後、どれほどの波紋を呼ぶことになるのだろうか。
案の定、周りの天使たちもざわついている。
「嘘っ……首席って悪魔なの?」
「天使が悪魔に負けるなんて……」
「前代未聞よ……」
その反応にも、壇上のダリウス・ヴァルシオンという悪魔は微塵も動じていないよう。
それどころか、落ち着いた様子で静かに周囲を見渡し、ゆっくりと口を開けた。




