許されぬ恋のはじまり~序章~2
すると――机に軽く腰掛けた彼と、バッチリと目が合ってしまった。
思わず目を見開き、ドキっと胸が跳ねる。
なんで?
私の事なんて気にもせず、とっくに帰り支度でもしてると思っていたのに……
「な、何ですか?」
そう聞くと、彼は謎の笑みを浮かべてこう言った。
「お前の方こそ」
なんだか心の奥を見透かされたような気がして、頬が熱くなる。
返す言葉も見つからないまま、私はぷいっと視線を逸らし、すぐに部屋を出た。
足早に長い廊下を歩く。
なんでこんなにも、彼の事になると動揺してしまうんだろう……
それからというもの、彼と会話をする機会が増えた。
それは――
私と彼が、天界と魔界の輸出入の管理担当に任命されたからだ。
私は天帝の補佐、そして彼は魔王の補佐。
お互い、季節ごとに行われる天魔会議や、資料作成、書類の受け渡しなどで、この『天魔殿』に頻繁に足を運ぶ。
この『天魔殿』は、天界と魔界の中間にある中立領域『無の座』に建つ施設で、唯一、天使と悪魔が交流する場所だ
民の意見収集や情報管理はそれぞれの領内で行われているけれど、世界全体の統治や魔界天界との輸出入、それに関わる協議や調整は全てここで行われている。
そのため、私を含む補佐官たちが出入りしている。
そんな中で、彼と同じ担当を任された私は、必然的に彼と関わる機会が増えていった。
けれど――どこか、変だった。
前に一緒の担当だった悪魔とは、必要最低限のやり取りで事足りていたのに。
彼とだけは、そうならなかった。
私が書いた書類に、無言で赤線を入れて返してきたり、会議資料の端に小さな皮肉を書き込んできたり……
やることなすこと、癪に障った。
なのに――不思議と嫌ではなかった。
むしろ……
そんなやり取りを楽しみにしている自分に、気付いてしまった。
「本当、どうかしてる……」
夕焼けが差し込む、ある日のことだった。
「もう、何よ。資料くらい自分で取りに行きなさいよ!」
資料室の中で、私は彼が指定してきた書類を探しながら、ぶつぶつと文句をこぼしていた。
棚をいくつも確認したのに、いくら探しても見つからない。
「……本当にあるの?この資料。もしかして誰か使ってる……?」
そう呟いた、その時――
カチャッ。
ドアが開く音に、私は思わず振り向いた。
そこには、あの無表情な顔の彼が、静かに立っていた。
まさか、『遅い』とか文句でも言いに来たわけ?
そう思った次の瞬間――鍵の閉まる音が、彼の背後で響いた。
「えっ……」
今、鍵を……?
なんで……?




