疑いの目5
「お前、ちゃんとあいつをフッたんだろうな?」
「え!?あ、当たり前でしょ!?」
間髪入れず返した私に、ダリウスは軽く舌打ちをした。
「……チッ。それであれかよ。あいつのせいで、おちおち会えやしねぇ」
ダリウスは機嫌悪く口を歪める。
ルヴェルにバレたら――私たちはきっと、終わりだ。
私達の間に、沈黙が流れる。
「本当に……どうしたら前みたいに普通に会えるような状況に戻れるのかな」
そう呟くと、ダリウスは私を強く抱きしめた。
「……ダリウス?」
私は慌てて周囲を見渡す。
「待って、もし誰か部屋に入ってきたら……っ」
すると彼は、すっと小さく囁いた。
「大丈夫だ。今、この付近には俺たち以外いない」
前もって確認していたかのような発言に、違和感を持った。
ダリウスって時々、本当に気配を読んでいるみたいに感じる時がある。
「なんでそんなのが分か……」
ダリウスは、私が話している最中なのに、グイっと顎を持ち上げる。
赤い瞳に射抜かれた瞬間――キスが落とされた。
久しぶりのキスに、全身に熱が走った。
大好き、という気持ちがとめどなく溢れていく。
そっと離れていく唇から、小さくリップ音が響く。
「はぁ……全然足りねぇ。あいつが毎日毎日邪魔するせいで……」
その不満げな呟きに、胸の奥がキュッと締めつけられた。
私も――本当はもっと、彼に触れていたい。
でも……誰かに見られたらと思うと、落ち着かない。
周りが気になって仕方ない……
そう思った瞬間、彼の赤い瞳が熱を帯びて私を見つめてきた。
彼の手が髪に触れ、指先でそっとかきあげる。
そして耳にかけられると、囁きが静かに落ちてきた。
「……明日、俺の部屋に来いよ」
「……えっ」
一瞬、時間が止まった。




