疑いの目1
…………
……
「昨日、あのあと教室に戻らなかったよね?どこに行ってたの?」
朝、教室に着くなりルヴェルにそう聞かれた。
まだ朝の涼しさが残る教室に、緊張が走る。
あの後はなんだか戻れそうになくて、最後の授業だったし、そのまま早退してしまった。無遅刻無欠席無早退で来ていたのに……
「探したんだ。姿が見えなくて。何人かに聞いたけど、誰も知らなくて……」
「ご、ごめん。医務室に行かないって言うダリウスを説得してて……」
「ふぅん……どこで?」
疑いの目で私を見つめてくる。
「えっ……えっと……どこだっけ?あ!思い出した、あっちの方だったような……」
咄嗟に、生徒があまり使わない講師用の建物を指差した。
すると、突然ルヴェルが私の手を取った。
「少し屋上まで付き合ってくれない?誰もいない場所で、ちゃんと話をしたいんだ」
「え、今……?」
もうすぐ授業が始まるけど……
「うん。すぐ済むから」
強引に連れて行かれた屋上。
風が吹き抜ける無人の場所で、ルヴェルは真剣な顔で私を見つめていた。
まさか……嘘がバレた?
問い詰められる……?
嫌な予感に血の気が引いていく。
「まず、昨日の返事を聞かせてほしい」
ん?昨日の返事?
あっ……そうだった。
昨日……
昨日の光景が脳裏に鮮明に蘇ってくる。
『リシェル。聞いてほしい。僕は……君が好きだ』
花束を抱え、片膝をついて見上げてきた、あのまっすぐな瞳……
ルヴェルは、私にはもったいない程に素敵な人。
いつの日か、天界を導く天帝という立場になるかもしれない、名門クラウディセル家の長男。
物腰は柔らかく、誰にでも優しく、まさに天使の鑑のような存在。
でも……私の心は、ダリウスのもの。
私は目を伏せて、静かに口を開いた。
「……ごめんなさい。私、その気持ちには応えれない……」
「それって、もしかして……ダリウス・ヴァルシオンと付き合ってるから?」
その名前が出た瞬間、思わず顔を上げた。
風に揺れる白銀の髪。
その奥の碧い瞳が、私をまっすぐに見据えていた。
「……えっ……?な、なに言って――」
私は今、どんな顔をしているんだろうか。
「仲いいよね、最近」




