赤い瞳、黒い翼との出会い1
入学式の日。
白地に金の刺繍が施されたワンピースの袖を通す。
鏡に映る見慣れない姿に、少しそわそわしながら軽く裾を整えた。
「……似合っていますよ、リシェル様」
「ありがとう」
いよいよ、今日からアルカディア学院での生活が始まる。
恐怖と期待で、昨夜はあまり眠れなかった。
玄関を出ると、すでに飛行馬車のペガサスが用意されていた。
両親と、他の世話役も見送りに立っている。
お父様は、どこか心配そうな顔をしている。
「何か困ったことがあったら、いつでも連絡するんだぞ」
「はい。大丈夫です。行ってきます」
ペガサスに乗り込むと、静かに羽ばたき、馬車がふわりと浮かび上がった。
「わっ……」
馬車が小さく揺れる。
見慣れた街並みが、どんどん小さくなっていく。
「高い……」
こんな高さなんて、初めて……
実は、私は天使なのに飛行が苦手だ。
訓練は何度も受けているけど、羽でバランスを取るのが苦手で、未だに高くは飛べない。
だから、こんな高い所まで来たのは初めて。
窓に手を添え見下ろす街並みは、あまりの小ささに、まるで別世界のよう見えた。
暫くすると、遠くに、白くそびえる神々しい宮殿のような塔がいくつも見えて来た。
空に浮かび上がる神殿のようなその光景に、思わず息を呑む。
「あれが……アルカディア学院……」
ペガサスはゆっくりと高度を下げて、門の手前に降り立った。
私が馬車から降りると、目の前には重厚な装飾が施された門がそびえていた。
「凄い……」
さすが、天界一の学院。
威厳と気品を感じ、思わず見惚れてしまう。
私は門を見上げながらくぐった。
その瞬間、何か言葉に出来ないような感覚が走った。
白く輝く石畳がまっすぐ奥へと伸び、その先には空へと続くような高い塔がそびえている。
周囲に咲き誇る花々が視界を彩り、ふわりと甘い香りが風に乗って届く。
吹き抜ける澄んだ風が、私の髪を優しく揺らした。
高く澄んだ空。ゆるやかに流れる雲が、まるで私を祝福するかのように見えた。
そして、そんな景色を眺めるうちに、微かな懐かしさを感じた。
初めて来た場所のはずなのに、どこか知っているような、そんなざわめくような感覚。
でも、視界に入ったのは――黒い制服に黒い髪。
「……っ!!」
あれが悪魔……!!
思わずドキっとして瞬時に血の気が引く。
私だけでなく、そんな悪魔の姿に、天使たちは怯えたように目をそらした。
悪魔たちはそんな天使たちが気に食わないのか、敵意を露わにした赤い瞳を光らせている。
その光景に、瞬時にお父様の言葉が頭を過り、不安が募った。
でも、まだざわめきは消えない。
不思議に思いながらも、私は何かに引き寄せられるように、小道へと足を踏み入れる。
すると、その感覚がさらに強くなった。
誰かが、私を待っているように感じる。
これは一体、何……?
ふと視線を上げると、道の先に広がる美しい庭園が目に入った。
そして、何気なく花畑の向こうに目をやる。
するとそこには――
黒い翼を持つ、男性がの後ろ姿があった。
「……っ」
その男性を目にした瞬間、胸が酷くざわついた。
まるで、原因はこの男性だと言わんばかりに――
心臓が早鐘を打つ。
その時、青い空を背景に色とりどりの花びらが一気に舞い上がる。
黒髪が風に揺らされた彼は、静か空を見上げてた。
景色をゆっくりと見回す彼。
顔の角度が変わり、横顔が見えた。
その、とても美しい横顔に、私は思わず息をのんだ。
――知っている。




