秘密の関係10
ダリウス……
苦しさと弱さが滲んでいて――
ダリウスの想いが、苦しいほどに伝わってくる。
「器の小さい奴だと思ったか?」
苦笑いして言ったその言葉に、私は静かに首を振った。
「そんな風に思ってくれていたなんて……すごく嬉しい……」
私は静かに、自分が打った頬に手を伸ばす。
「痛くない?ごめんね」
「大丈夫だ」
そう言われるも、静かに治癒魔法をかける。
ダリウスが、本当に私の事が好きなのか信じられない時がある。
でも……今の話を聞いて、『こんなにも私の事を考えてくれていたんだ』って……その事がどうしようもなく嬉しくて、胸が熱くなった。
「心配しなくても大丈夫だよ。私は、ずっとダリウスだけだから」
そう言って、私はダリウスをそっと抱きしめた。
「……本当に、そう言い切れるか?」
「え?」
見上げると、彼が私の心の奥を覗き込むように見つめてくる。
その視線に、心臓が跳ねた。
「俺は、何があってもお前と共に生きていくと決めている。でも、お前は時々……そうじゃないように見える時がある」
何が、あっても……
「俺の勘違いか?」
確かに……もし家にバレて反対された時……
私は本当にダリウスを選べるの?
そんな状況でダリウスを選べば、長年の私の夢も努力も消え、家だけでなく、何もかもを失うだろう。
そうなると分かってでも、私は本当にダリウスを選べれる……?
そんなの……分からない。
なら、良好な関係を築いていく為に、『言い切れる』と言ってしまった方がいいんだろう。
そうは分かっていても、私は……そんな嘘をダリウスにつきたくないと思った。
私は口をギュっとつぐんだ。
「正直……分からない……」
「やっぱりな」
ダリウスは、そっぽを見るように視線を逸らした。
「小さい頃からの夢も、育ってきた家も……全部捨ててダリウスを選べるか、なんて……すぐには答えられない」
その言葉にため息が聞こえた。
「……でも……私はダリウスが好きだよ」
そう口にすると、静かに彼の視線が戻ってくる。
さっきまでどこか不機嫌そうだった表情は、少し和らいでいた。
「毎日……自分でも呆れる位に、ずっとダリウスの事ばかり考えてる。こんな気持ちになったのは……ダリウスだけだよ」
彼の頬が、わずかに赤くなったように見えた。
そのせいで、私まで顔が熱くなってきて、頬にそっと手を当てた。
「でも……もしバレたら、私や私の家族、それにダリウス側までどうなるか分からないわ。
『滅ぼしの子』が生まれるかもしれないって、恐れられるに決まってるから」
「『滅ぼしの子』……?」
「愛し合った天使と悪魔の間に生まれる、『滅ぼしの子』の話よ。昔、滅ぼしの子のせいで世界が滅びかけたでしょ?まさか知らないの?」
「ああ、あれか。天界では『滅ぼしの子』って呼ぶんだな」
「魔界とは違うの?」
「ああ、少しな」
「とにかく、天使と悪魔が深く結びつくことで皆一番恐れるのはそれよ。
だからバレたら、天界側も魔界側も、どんな手を使ってでも私たちを引き離そうとするはず。
そうなったら、こうやって会うことすら、もう……」
「あんなの、ただの伝説だろ?お前真に受けてるのか?」
「えっ……?伝説?」




