秘密の関係8
その言葉の意味を理解するより先に、目の前の花束が廊下に叩き落された。
虹色の花が無残にも床に散り、光の粒がこぼれるように広がった。
そんな様子が目に映った瞬間、いつの間にかルヴェルの横にいたダリウスが、私の腕を強く引いた。
「何してんだ!」
ダリウスの、低く唸るような声が廊下に響く。
「ダリウス……っ」
「これは、俺のだ!」
ダリウスはそう叫ぶと、そのまま私を自分の背後にかばうように立ち、ルヴェルと向き合った。ダリウスの表情には怒りが滲み、目は鋭く光っていた。
「は?何言っ……えっ?」
ルヴェルはダリウスの言葉に、困惑したように眉をひそめる。
「よく聞け、こいつと俺はな……」
まさか、それ言う気――!?
私は咄嗟にダリウスの前に飛び出し、ダリウスの口を両手で塞いだ。
「き、きゃーーーーー!!」
もう無我夢中だった。
だって今、確実にダリウスが私たちの関係を口にしようとしていたから。
こんな人目の多い場所で、そんなことを言われたら本当に終わりだ。
「な、何言ってるの!?この悪魔は!!」
周りの天使や悪魔たちもこちらを見ている。
まずい、これは本当にまずい!完全に注目の的だ。
ルヴェルも驚いた顔でこっちを見ているし!
やばいやばいやばい!!冷や汗が止まらない!
「『俺の』って、どういう事……?」
ルヴェルの視線が鋭くなった瞬間、頭の中が真っ白になる。
「あ……、えっと……」
言葉が……出てこない……
「わ……私たちは確かに……ちょっと話すことはあるけど、そんなんじゃないの!」
「は?」
酷く低い声を出すダリウスの顔は、怖くて見れない。
でも、とりあえず今のダリウスは何を言い出すか分からない!
1秒でも早く、誰もいない所に連れていかないと!
「さっき食堂で変なもの食べてたから、おかしくなったんじゃない!?ほら、早く医務室に行きましょう!!」
そう言いながら、私はダリウスの背中をグイグイ押し、その場を離れようとする。
「おい、待て。誰が医務室なんか……」
「ダメです!!悪魔は具合悪くても気づかないことがあるんです!!」
「んなわけあるか!!」
そうして、なんとか私達は無理やりその場を離れる事に成功した。
後ろからルヴェルの「リシェル……?」という困惑の声が聞こえたけど、振り返る余裕なんてなかった。
そして――
ドンッ!!
手を引かれ、よく分からない部屋に連れ込まれたと思った瞬間、私の背中は壁に押しつけられていた。
「なんだ、あれは!」
目の前には、怒りを隠そうともしない、ダリウス。
「『少し話すような仲』?」
低く、冷たい声。
その赤い瞳が、目を吊り上げて私を見下ろしている。
「『そんなんじゃない』?」
ぐっと顔が近づく。
「じゃあ、俺たちって何なんだ!?」




