秘密の関係2
がっしりとした体に包まれて、胸がぎゅっとなった。
ふわりとダリウスの香りが濃くなる。
「はぁ……1秒でも早くこうしたかった」
ため息混じりに耳元で囁かれる。
「ダ、ダリウスっ!誰かに見られたらどうするの!」
ここは基本、誰も通らない場所。
だけど絶対に安全とは限らない。
なにより、時々遠くから鋭い目を向けてくるザハルク講師のことも気になるし……
「誰もいないから安心しろ」
そんなの、影にいたら分からないでしょ。
もし、こんなところを見られたら……言い訳なんて出来ないわ!
なのに……
黙り込む私に、ダリウスはふっと腕の力を緩めて、そっと体を離した。
「……なんだよ、お前も楽しみにしてたんじゃなかったのか?」
その声は低くて、どこか寂しそうだった。
「……えっ?」
「俺は昨夜、お前と別れてからも、ずっと会いたくて仕方なかった。でも、お前はそうじゃなかったんだな」
その言葉に、胸がキュッと締めつけられた。
え……ダリウスが、そんなふうに……?
「そ、そんなわけないわ。私だって、ずっと会いたかった!ただ、バレた時のことを考えると不安なだけ!」
私の声が、自然と強くなる。
いけない事だと分かっているのに、抑える事が出来なかったこの想い。
それを疑われるなんて、相手がダリウスだったとしても我慢できなかった。
その言葉を聞いたダリウスは「そうか」と小さく呟き、再び私を抱きしめた。
その瞬間、嬉しさよりもまた人目を気にしてしまう自分がいた。
それでも、彼の腕の中にいると、不安が少しずつほどけていく。
彼の温もりが、揺れる心の奥にまで、静かに染み込んでいった。
こんなふうに人目を忍んでしか会えない関係なのに――
私は彼の腕に包まれるこの時間が、どうしようもなく愛おしいと感じた。
私も昨夜別れた後、会いたくて仕方なかった。
たった数時間離れていただけなのに……
でも、私はダリウスとは少し違う気持ちなんだと思う。
ただただ両想いになれたことを、手放しで喜べていない。
こんなに好きなのに、自分で選んだ道なのに……
本当にこれでよかったのかと、昨日は夜じゅう月を見上げて考えていた。
そんな事は初めてだったのに、なぜか妙に懐かしく感じた。
どうしてだろうか……
「リシェル……?」
私は、モヤモヤした気持ちを押し込めるように蓋をして、口を開ける。
「……明日も、またここで会いたい」
私の言葉に、彼はそっと身体を離し、微笑んだ。
「ああ。俺も、そうしたいと思って……」
ダリウスが話している最中、足元でカサッと何かが鳴った。
同時に私たちは足元を見た。
するとそこには、一枚の手紙。
ダリウスがしゃがんで拾い上げた瞬間、私はハッとする。
「ん?なんだこれ」




