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お父様が動きを止め、半身だけ振り返る。
「……どうした?」
アルカディア学院は、天使の秘術が学べる唯一の学校。
それに、天界の高位の役職につく者は、皆アルカディア学院を出ている。
私は、アルカディア学院に入る為に、今までずっと、ずっと頑張ってきた。
なのに、もしここで辞退したら――
私は何のために……
「確かに、悪魔は怖いです。でも……」
お父様は不思議そうな目で私を見つめた。
「私は……、辞退したくありません!!」
意を決して叫ぶと、お父様は目を見開いた。
そしてすぐに険しい顔になり、低い声で言った。
「どうしてだ。悪魔も通う学校になるのだぞ!?」
「分かっています! でも私の夢は天帝セラフィエル様の補佐になること! その為には、あの学院を出ないとなりません!」
その夢は、半ば決められた道筋だった。
けど、ある日、天帝セラフィエル様の姿を目にした時……
誰にでもご慈悲を与えるその優しさ。
堂々とした佇まいに滲む、神々しい威厳。
その姿に心を打たれ、私は決意した。
『この方の支えになりたい』と。
それに、天界の貴族である私は、あの学院を出なければ家の名に傷がつく事になるかもしれない。
お父様だって、私があの学校を出ないと困るはずだ。
「だが……」
「お願いします、お父様! 私をあの学校に通わせてください!」
必死に訴えると、お父様は眉をひそめて頭に手を当てた。
静かな間が落ちる。
そして、諦めたような目で、じっと私を見つめた。
「……はぁ……本当に、お前には敵わんな……」
お父様は額に手を置くと、嘆くように呟く。
「……分かった」
「お父様……!」
その言葉に胸が弾んだ。でも――
「ただし! 少しでも危険な兆しがあったら、すぐにでも退学をする! ……いいな?」
お父様の目は厳しく、けれどその奥には愛情が滲んでいた。
「え……ええ、約束するわ!」
私は、その場に勢いで約束してしまった。
この時の私は、世界を震わせる運命の出会いが、すぐ目の前まで迫っていることを――まだ知らない。




