秘密の関係1
私達は、恋人となった。
天使と悪魔なのに。
もちろんそんなことは誰にも言っていないし、この先言う相手も居ないだろう。
万が一バレたとしたら、家紋に傷がつくどころでは済まないから。
絶対に誰にもバレてはいけない!
それどころか、怪しまれることさえ許されない!
そんな思いを胸に、私は静かに学校の階段を上がっていく。
ちょうど階段の踊り場に差し掛かった時、上から聞き慣れた声がした。
見上げると、悪魔の生徒と話しながら階段を降りてくるダリウスの姿が目に入った。
「あっ……」
思わずそんな声が出る。
すると、彼がこちらに気づき、片手を軽く上げた。
「おはよ」
ドキっとした私は、小さく「おはよう……」と目を伏せて返す。
天使と悪魔の教室が分けられてからというもの、日中にダリウスと会える機会はめっきり減った。
だから、こうして偶然に会えるだけで、内心喜ばずにはいられない。
……でも、それを絶対に表に出してはいけない。
他の生徒の目だってあるんだから。
そう思いながらも、さりげなく視線を送る。
なのに、昨夜ぶりのダリウスの姿に、ついつい釘付けになってしまう。
すると……ダリウスがすれ違いざまに私の指先をそっとなぞった。
「……っ!」
目を見開いた瞬間、耳元に甘く低い声が落ちてくる。
「見すぎ」
ドキッとした私は、とっさに耳元を押さえた。
慌てて振り返ると、ポケットに手を突っ込んだままのダリウスが振り返った。
赤い瞳が私を捉えると、ふっと口角を上げる。
そしてその唇が、声を出さずにゆっくりと動いた。
ま・た・よ・る・な。
『また、夜な……』
と、そう言われた気がして、私は思わず胸を押さえた。
そのまま何事もなかったように去っていく彼の背中を見つめながら「なんなのよ、もう……!」と呟く。
あんなに接近したら、怪しまれるでしょ!?
私達の関係は、絶対にバレちゃいけないのに……っ!
そんな風に心の中で叫ぶけれど、小さな悪戯に、どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。
彼への想いを認めただけで、私の頭の中は、不思議なくらいに彼の事でいっぱいになっている。
――ほんの一瞬の出来事だったのに。
あの手の温もりも、耳元に残る甘い声でさえも、焼きついたように離れなかった。
夜――
いつもの寮の庭の陰で、私たちは落ち合った。
「もう!ダリウス、ああいうのやめてよ!バレたらどうするのよ!」
昼間、すれ違いざまに私の指先をなぞったダリウス。
あの時の接近を思い出すだけで、また冷や汗が噴き出てきそうだ。
必死な私に、ダリウスはククッで笑った。
「あれくらい、大丈夫だろ」
「何を根拠に……」
口を尖らせると、「そんな事より……」と囁いたダリウスが、突然私の腰に手をまわして来た。
ドキっとした瞬間、ダリウスは、グッと自分の方に抱き寄せた。
「きゃっ!」




