嫌なら、殴ってでも止めろ5
全身がビクンと震え、思わず目を見開いた。
すぐに全身が熱くなっていくのを感じる。
抵抗しなきゃいけないはずなのに、意識がどんどん溶けていく。
私は静かに瞳を閉じ、そっと応えるように唇を預けた。
それは、甘く、切なく、そして――
背徳の香りがする、禁忌の口づけだった。
ふわりと重なった唇が、そっと離れていく。
触れた感覚がまだ残っているのに、彼の熱だけが遠のいていく。
「な……んで……」
してしまってから押し寄せる、熱い気持ちと、戸惑いと不安。
混乱しながら問いかけると、彼は再び私の頬に手を添え、真っ赤な瞳でじっと見つめてくる。
「……なんでだろうな」
低く、優しく、どこか迷うような声。
ダリウスは、微かにため息をつく。
「お前を見てると……時々、言う事を聞かなくなる」
そんな言葉に、胸の奥が一気に跳ねた。
「何度も何度も抑えて来た。……なのに、今回ばかりは……」
彼の指が、私の頬を滑るように撫でる。
そして親指が私の下唇に触れた。
「……っ」
まるで、触れた部分から熱が伝わっていくみたいに、顔がカーッと熱くなっていく。
「な、何言ってるの……?」
訳が分からない。
それじゃ、まるで……
「まさか、あなたは私の事が好きなの?」
私の言葉を聞いた途端、彼は一瞬驚いたように一度だけ瞬きをすると、顎に手を当てて考え込み始めた。
そして自分でも気づいていなかった事実に初めて気づいたかのような顔をした彼は、私を見つめて呟いた。
「……ああ……そうか。
俺、ずっとお前が好きだったんだな」
私は、そんな彼の言葉に、目をグンと大きくした。
「……えっ?」
「だから妙に気にかかってたのか」
「え……えぇっ!?」
「学校が再開された時、ルヴェルって奴に肩を抱かれた姿を見て妙にムカついたのも、そういう事か……。ふぅん、なるほどな……」
な、何それ……
確かに、あの時ダリウスに睨まれた。
あれは、ずっと、私たち天使に対する敵対心だと思っていたけど……
ダリウスは私の事……
ほ、本当に?
まさか、またからかわれてるんじゃ……!?
信じられない気持ちで、ダリウスを見ると、私をのぞき込むように顔を近づけて来た。
私はドキッとしてギリギリまで身を引く。
「で、お前はどうなんだ?」
彼の瞳が、まっすぐに私を捉えた。
まるで、逃げ場を塞ぐみたいに。
「ど、どうって……」
あれ?ダリウスって、こんなにかっこよかったっけ?
突然輝いて見えるダリウスに、慌てて目を逸らす。
そして再び伺うように見上げる。
すると、赤いルビーのような瞳が私を射抜いていた。
胸が、強制的にドクンと跳ねさせられる。
「お前は俺のこと、どう思ってるんだ?」
その問いに、言葉が出ない。
私がダリウスを、どう思っているか……なんて。
ずっと、考えちゃいけない事のように思っていた。
この気持ちを直視するのが怖くて、ずっと心の奥に閉じ込めてきた。
認めてしまえば、もう戻れない。
それは、天使として踏み越えてはいけない一線だから。
だから、私が言うべき言葉は決まっていた。
「わ……私……」




