嫌なら、殴ってでも止めろ4
見なくても分かる。
私は、またもやリンゴのように赤くなっているはずだ。
気づけば、彼の顔がゆっくりと近づいてきていた。
そのまま、私の視界を彼がすべて埋めていく。
目の前に迫るルビーのような瞳が、わずかに細められ、私の視線を深く絡め取る。
心臓が爆発しそう。
「ま、ま、ま、待って……!」
私は慌てて、彼の胸板に手を置き、思わず顔を背けた。
え……っ!?
えぇ!?
い、今、まさか……
「も、もしかして、今キ、キスしようと……!?」
「ああ、そうだけど?」
平然とした口調で返ってくる返事に、驚きが隠せない。
「そ、そうだけど!?……えぇ!?」
な、何言ってるの!?
「天使とキ……キスなんて、そんなの絶対駄目でしょ!?」
頭が混乱する。
「……知らない」
そう言われて一瞬思考が止まる。
彼の手が、そっと私の頬に添えられた。
また心臓が跳ねる。
「嫌なら、殴ってでも止めろ」
次の瞬間――
世界が静まり返った。
ふいに引き寄せられ、視界いっぱいにダリウスの顔が迫る。
逃げなきゃ、と思ったのに、足がすくんで動けない。
彼の瞳が、赤く揺れた。
そのルビーのような赤い瞳が、吸い込まれそうなほどに美しく映り込む。
そこには、迷いの色など一つもなかった。
そして――
彼は私の唇を、奪った。




