嫌なら、殴ってでも止めろ2
「バレたか」
やっぱり、ダリウスだったんだ……
『どうにかしてやる』って言ってくれたけど、本当に……
ダリウスが、私のために動いてくれていたという事が、こんなにも嬉しい。
「お前が気付くくらいに、マシになってんだな」
「……うん。数人かに謝られたし、前ほどじゃないけど結構話してくれるようになったんだ」
「それはよかった」
ダリウスは目を細めて微笑んだ。
そんな姿にドキっと胸が鳴る。……まただ。
「ダ……ダリウスには、本当に助けられてばっかだね」
「大げさだな」
「ううん。大げさなんかじゃないよ」
そう言うと、ダリウスは少し間を開けてから口を開けた。
「……最近、やけに素直だな」
それは、きっとダリウスに対するイメージが変わったから。
「そうかな?って……私、前から素直だけど!?」
まるで前は素直じゃなかったみたいな言い方に、カチンとくる。
「それはないな」
ダリウスは肩をすくめて断言して笑う。
そんな言動に、私は思わずベンチから立ち上がり、口を膨らませた。
「ひどい!」
ダリウスは怒る私の姿を見て、くくっと笑っている。
「も、もういいわ……」
私はため息をついて再び腰を下ろす。
そして、まだ笑っているダリウスに目を見てから、視線を逸らす。
「……ありがとう。ダリウス」
「はいはい」
ダリウスは、軽く手を払う仕草をした。
なんだろう。
最近、何気ないダリウスの1つ1つの言動にさえ、胸が熱くなって……どうしようもなく愛おしく感じてしまう。
「で。どうやったの?脅しでもしたわけ?」
「んな事するか。明らかに逆効果だろ、それ」
「じゃあ何したの?」
「いいだろ。別に知らなくても」
「えっ!?教えてくれないの!?」
いくら言っても教えてくれないダリウス。
けれど、不思議と不安はなかった。
知らなくても、本当に大丈夫だって――そう思えるくらいに、私はダリウスを信じていた。
きっと私にはできないような方法で、ちゃんと上手くやってくれたんだろう。
……気にはなるけど。
「もう!」
小さく拗ねてみせると、ダリウスは勝ち誇ったように笑った。
その顔が、なんだか悔しくて。
それでも、口元がふわっと緩みそうになる。
「……意地悪」
そう呟いて、私は空を見上げた。
夜空には、穏やかに星が瞬いていた。
ダリウスと並んで見上げる、こんな穏やかな時間。
だけど――あの手紙の内容。
こんな平和な時間がいつまで続くんだろうか。
世界は、私の知らない間に平穏とは程遠い状況になりつつあるらしいのに。
1万年以上前、天使と悪魔の間では終わることのない戦争が繰り返されていた。
そして、ある時を境に、天使と悪魔は最低限しか関わらないことで、なんとか平和が保たれてきたそうだ。
けど、今、その均衡が崩れようとしているようだ。
突然の共存共栄を掲げて、たった数年なのに……
お父様の手紙の内容からすると、天使側や悪魔側からも、『やっぱり共に暮らそうという試みは失敗だった』という否定的な意見しか出ていないそうだ。
今回の事の発端は、あの学院で起こった事件だと言われているようだけど、それ以前に、何かきっかけさえあれば戦争が始まってもおかしくない状況だったらしい。
そんな状況なのに、どうして共存共栄を掲げて動き出してしまったのか。
そして、どうしてそれをお互いに許容してしまったのか……
ただの学生の私には全く理解できない話だ。
とにかく、世の中では今、緊迫した空気が流れている。
戦争なんて始まったらどうなるのかなんて分からないけど、学校なんて行っていられる状況じゃなくなるんだろう。
そうなったら、こんな時間なんて……もう……
私は静かに眉を寄せた。
風が静かに吹き抜ける。
「なぁ」
そんな呼びかけに彼を見る。
彼は笑いもせず、ただ静かに私を見つめていた。
「もし、俺たちが敵同士になったら……お前どうする?」
突然の質問に、思わず息を呑んだ。
えっ……?
まさか……
「……もしかして、ダリウスも知ったの?」
そう言うと、静かに片眉を上げた。




