ダリウスって何者!?7
リシェルが信じて話したことが、聞かれてしまったわけでも無いのに周りに漏れた。
それは、親友が故意に漏らした事が原因だろう。
その理由は、だいたい想像がつく。
天使が天使を攻撃するなんて、あってはならない。
そんな、天使お決まりの『正義』を守りたかったんだろう。
それを崩しかけたリシェルが、許せなかった。
それが本当に正義か!?
胸の奥で、何かが軋む音がした。
信じて話した相手に背を向けて、まわりに言いふらして孤立させて……
そんなの、どこが親友だ!!
頭に血が上る。
拳を握りしめると、爪が皮膚に食い込むほどの力が入っていた。
ぶん殴ってやりてぇ。
でも、それじゃ駄目だ。
一瞬、拳を振るう自分の姿が脳裏をよぎるが、すぐに頭を冷やそうとした。
頭に手を当て、怒りを納めようと静かに息を吐く。
俺が感情のまま動いたら、リシェルの立場が余計に悪くなるだけだ。
そんなことは、リシェル自身が一番望んでないだろう。
それに――
今のリシェルに必要なのは、俺が怒りをぶつけることじゃない。
リシェルを……守りたい。
リシェルは、俯いたまま震える肩を押さえ込むようにしていた。
まるで、これ以上泣いちゃいけないと自分を必死に抑えつけているみたいに。
その姿が痛ましくて健気で、ひどく胸を締め付けた。
こんなにも辛そうにしているのに、俺は何もできないのか?
いいや――そんなわけがない。
「……どうにかしてやる」
そう呟き、俺は静かに立ち上がった。
リシェルは濡れた長いまつ毛を上げて俺を見上げた。
…………
……
調べてみると、リシェルの親友は――ルミナ。
名門の血を継ぐ貴族天使で、学院内でも影響力が強いらしい。
そして、そのルミナこそが、噂を広めた張本人だった。
「……やっぱりな」
思った通りだ。
ただ、見たところ、あの女は信念が強すぎる。
一度『正しい』と思い込んだら、誰の言葉も聞かないタイプ。
正面から説得しても、逆効果になるだけだ。
なら――狙うのは、周りだ。
俺は静かに方向を変え、ルミナの取り巻きのもとへ向かった。
すると、案の定、そこではリシェルの悪口で盛り上がっていた。
「この前、また悪魔と一緒にいたところを見たわ」
「ああ裏切者のリシェルでしょ?」
「ほんと、ルミナ様もお優しいわよね。天使への冒涜なんて言ったリシェルを放置するだなんて」
「間違いに気付かないなんて、天使として終わりよね」
その声を聞きながら、俺は心の中で息を吐く。
……なるほど。
こうして『正義』の名を借りて、誰かを追い詰めるわけか。
俺はゆっくりと足音を立て、彼女らの輪に影を落とした。
「へぇ……お前ら、そんなにリシェルが『間違ってる』って言い切れるんだ?」
天使たちは一斉に振り返り、俺を見るなり目を見開いた。
「あ……リシェルと一緒にいる悪魔……!!」
「まさか、今の聞いてたの……!?」
不安そうな天使たちの中で、奥にいた蜂蜜色の髪の天使が一歩前へ出た。
さっと腕を組むと、強気に言い放つ。
「あら、お得意の盗み聞き?しかも上から目線で説教?」
どう考えても、お前らの方がよっぽど偉そうだろ。
そう言い返したくなるのを、ぐっと堪えた。
「リシェルがこうなったのは、元はと言えば悪魔のせいなのに」
「どういう意味だ」
「全部、あんた達みたいな非道な悪魔と関わったせいだって言ってるのよ!」
……相変わらず、答えになっていない。
本当、つくづく天使の発想力にはついていけない。
俺は一度だけ短く息を吐いたあと、静かに言葉を落とす。
「俺はさっき、『間違ってるって言い切れるか』って聞いたんだけどな」
「だから、リシェルが悪魔とつるんでるのが間違ってるって――」
「それ、本当に『間違い』なのか?」
その一言で、空気が止まった。
「リシェルが『天使が犯人かもしれない』って言っただけで、なんであんなに騒ぐんだ?」
「……は? それは当然――」
「間違ってるなら、証拠を出して冷静に否定すればいいだけだろ」
「そ、それは……」
「でもお前らがしたのは、ただリシェルを孤立させることだった」
「……っ!」
「それが……お前ら天使が掲げる『正義』なのか?」




