ダリウスって何者!?6
この能力は、利用価値が高いがゆえに非常に危険を伴う。
下手に知られれば、力を狙われ、利用されることが多い。
だから、公にするのは社会に出てからというのが一般的で、今は隠している。
その時――
「ねぇ、見て。ほら、また一緒にいる」
「信じられない……やっぱり、異端者なんだわ」
「悪魔に影響されて、おかしくなったのよ。かわいそうに……」
……近くを通りかかった天使たちが、ヒソヒソと話し始める。
リシェルの肩が、わずかに揺れた。
俺は無言でそっちを睨むと、連中が慌てて去っていく。
「なんだ?あいつらは」
今、異端者とか言っていたか?聞き間違いか?
さすがに悪魔と天使が仲悪いと言っても……
リシェルに目をやると、リシェルは眉を寄せて俯いていた。
「な、なんでもないの……」
どう見ても、なんでもないようには見えなかった。
「本当か?」
「……うん。本当に、なんでもない……」
そう言いながらも、リシェルは唇をギュッと結んでいた。
泣きそうになりながら、自分を抱くように二の腕を掴む。
そんな様子に、胸の奥がざわついた。
事件が起こる前でも、悪魔と天使が仲良くしているのを批判的に見る天使はある一定数いた。
それは、天使しかいない上級生なんかには特に濃く出ていた。
事件後からは、明らかにそれが酷くなっている。
それなのに、なぜこんな状態になってまで、共学を続けようとしているのか。
魔界側が強く望み続けた、共存共栄。
ようやく実現した共存の第一歩を、ここで無にしない為に、魔界側が粘ったんだと思った。
でも――調べてみると、実際は逆だった。
魔界側は今回の事件に深く傷つき、これ以上は無理だと学院から悪魔の撤退を申し出たという。
それを……天界側が引き止めた。
不可解だった。
事件が起きてしまった今、共学を続ければ、かえって溝が深まる可能性が高い。
そう、まさに今、リシェルが向けられた目のように……
「原因は俺か」
「えっ……?」
「俺と一緒にいるからだな」
「違う……」
リシェルは、俯き言葉を詰まらせる。
俺は思わずリシェルの手を握った。
リシェルの指先がピクリと震えた。
「本当か?俺の目を見て言ってくれ」
リシェルが顔を上げる。
碧い瞳孔が、微かに揺れている。
やっぱり嘘が下手だ。バレバレなんだよ!
俺と一緒にいる事で変な噂を立てられているんだろう。
今のこの学院の状況を考えると、もっと人目につかない場所を選ばないと駄目かもしれない。
「正直……それも、あるかもしれないけど……少し違うの」
そして、小さく震える声がようやく絞り出される。
「……どういう事だ?」
リシェルが言いにくそうにしている中、無理やり聞き出すのはよくないとは分かっていた。
でも、こんなリシェルを見て放っておくなんて、俺には出来なかった。
「じゃあ、なんなんだよ。なんでお前があんな事言われなきゃならないんだよ」
そう口にしながら、自分の怒りが込み上げてくるのを感じた。
リシェルの肩が小さく震える。
両手を膝の上でぎゅっと握りしめたまま、なかなか言葉を継げないようだった。
「わ……私が……」
彼女は下唇を噛みながら、俯いた。
「私が……」
眉が悲しげに下がっていく。
そして、ついに目尻に涙が滲み出した。
その瞬間、胸の奥がチリ、と焼けるように痛んだ。
やっぱり無理に聞き出すべきではないと、止めようとした、その時、リシェルは途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。
「私が……天使が、犯人かもしれないって……親友に相談したことがバレて……」
えっ……?
リシェルは鼻先を赤くして俯いた。
「話している所を、誰かに聞かれたのか?」
俺の問いに、リシェルは静かに首を振った。
その瞬間、すっと頬に涙が伝った。
ぽつぽつとこぼれ落ちる涙が、スカートに小さなシミを作っていく。
「うっ……」
違う?
じゃあ、まさか……
リシェルはそれ以上何も言わなかった。
でも、それだけでもう十分だった。
『親友』?
笑わせるな!




