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私はあまりの話に、耳を疑った。
そして一瞬固まってしまった。
「えぇ!? ど……どういう事ですか!?」
何かの間違いだよね!?
悪魔と共学なんて……そんなの聞いたことがない!
悪魔は魔界、天使は天界としっかりと住み分けがされている。
行き来も厳しく制限されているから、普通の天使は一度も悪魔を見ないまま生涯を終える。
それほどに悪魔は遠い存在。
なのに、そんな悪魔と同じ学院に通うなんて――
「近年、悪魔と天使の共存共栄の話が出ているのは知ってるな?」
「……はい」
確か、ずっと悪魔側から強い要請が出ていて、天使が折れる形で話が進んでいるのよね。
「その第一歩として、アルカディア学院が試験的に悪魔との共学になることが決まったんだ!」
「そんな……なんであの学校が……」
天界一の伝統ある学校なのに。
「あそこは唯一悪魔の出入りがある学校だ。だから他よりは受け入れやすい、という判断に至ったんだ」
「そ、そんな……っ!! だって入学はもう来月よ!? あまりにも急すぎるわ!」
「実はこの案は前々から上がっていたんだ。
お前が受験した頃には、すでにあの学校が候補に上がっていた。でも……まさか本当に決まるなんて……っ!! 散々反対してきたのに!」
お父様の拳が震え、壁を殴る音が響く。
その姿に、私は息を呑んだ。
お父様の怒りに、空気だけでなく、心までも重くなったような感じがした。
あの学院は全寮制だ。
ただ通うのとは、わけが違う。
お父様はコツコツと足音を鳴らし、私の目の前に来ると、ぐっと肩を掴んだ。
「リシェル! 入学を辞退しよう!」
「えっ……!?」
「辞退の希望者は、特別措置として他の学院への転入支援がある。今すぐ辞退届を出そう!! それしかない!!」
特別措置があるって言っても……
それじゃ……
「悪魔と同じ学校に通うなんて、考えただけでおぞましい!
天使と悪魔は長年線引きをし、必要以上に関わらないようにして互いに秩序を保ってきたんだ! なのに共存共栄なんて、心底馬鹿げてる! そんな事、出来る訳がない!! お前もそう思うだろ!?」
怒りを露わにして投げかけてきた質問に、私は一度口を強く閉ざしてから口を開いた。
「は……はい」
悪魔となんて、関わったこと無い。
というか、生まれてこのかた見た事すらない。
天界にいる私達と違って、魔界に住む悪魔たちは自分勝手で攻撃的な種族。
髪は黒く、牙はとても鋭く、目は恐ろしい程に赤い。
それはまるで……血のようだと聞く。
その瞳に睨まれるだけで、石になった天使も数知れないという話も……
そんな種族と、これから一緒に過ごしていくだなんて……想像するだけで恐ろしくて身震いする。
…………でも。
「急いで転入先を考えよう。暫く忙しくなりそうだ」
そう言いながら踵を返そうとするお父様。
「ま、待って下さい!」
私は思わずその腕を掴んだ。




