ダリウスって何者!?5
「これは……本当に悪魔が良く使う、あの術式なんでしょうか?」
リシェルの声が響く。
「何を言ってるんだ?悪魔の術式そのものだろう!」
「明らかに、悪魔がよく使う術式だったじゃないか!」
馬鹿にされるような言い方をされても、リシェルは怯まなかった。
それどころか、一歩前に出て堂々と反論をした。
「普段、悪魔が使っている術式って……もっと『円の中にきっちり収まる形』だったはずです。
でも、さっき見た術式は、『円の外まで線がはみ出していた』ように見えました。他にも、模様が少し違っていたような気がします」
口調は謙虚な風に見えて、リシェルの目にはとても力があった。
そして、明らかに自信が宿っていた。
「ねぇ、ダリウス。今、悪魔の術式?って言ったよね」
ポルトの声に、意識がこちらに戻ってくる。
「ああ」
「女の子が倒れているのと関係あるのかな?あの子、大丈夫かな?」
「どうだろうな……」
そう言い、現場を見て目を細める。
まさか、あの女が倒れている原因は悪魔の術式?
もしそうなら――大変な事になる。
ただ見てる事なんて出来なくなった俺は、
「どけ!俺が見てやる!」と、間を割って前列に向かう。
まだ、今なら間に合うはずだ!
「現場を確認させてくれ!」
そう検証班に言っても、首を振られる。
しびれが切れた俺は、光の壁を打ち砕こうと手をかざした、その時――
「やめろ」
低い声がして、肩を掴まれた。
振り返ると――
この学院の悪魔専属の講師として赴任した、叔父のザハルクが立っていた。
「そんな事すれば、天使側の敵意が強まるだけだ」
「でも、まだ今なら……っ」
「目視で見えなくなった術式を検証なんて、『あの能力』の持ち主だと公表しているようなもの」
俺はその言葉に、ギリッと奥歯を噛む。
「じゃあ、ここで黙って見てろっていうのか!?」
叔父はが眉をひそめると――
「さすが野蛮な悪魔」
「今、破壊魔法を使おうとしたぞ!」
天使たちのからの冷ややかな声が突き刺さった。
大人しくしていても、気が荒いとレッテルを貼られている俺ら悪魔。
確かに、ここで動き、反論すればするほど、悪魔は『完全な悪』に仕立て上げられるだろう。
……ふざけんなよ……!
俺は、他の悪魔のためにも、ぐっと拳を握りしめた。
…………
……
『あの能力』を言えば、リシェルはどう思うだろうか……
本当なら、リシェルと手を組む以上、隠し事はすべきじゃない。
でも、どうしてもリシェルが異様に嘘が下手だというのが気になる。考えていることも、すぐ顔に出るし。
だから……やっぱり『あの能力』のことは、まだ伏せておくべきだろう。
言えば、今よりもリシェルが目をつけられる可能性が高くなる。
前はたまたま助ける事が出来たけど、次も助けられる保証なんてない。
悪魔と天使がバラバラに行動する今、リシェルを確実に守る方法なんてない。
やっぱりリシェルには悪いが、その時が来てからしか、このことは言えない。
俺が、ほんの一握りの悪魔にしか持たない貴重な能力――
『魔力を視る力』を持っているということを……




