ダリウスって何者!?4
「そんな事をしたら、お前の命がいくつあっても足りなくなる」
リシェルが俺の言葉を聞いた途端、キョトンとした顔を向けてくるから驚いた。
おい、首席候補がそれで大丈夫かよ……
「あの夜のこと、忘れてないよな?」
「書庫で影に襲われたこと?」
「ああ……あれは偶然なんかじゃない。
犯人は、疑いの目を向けるお前を疎ましく思って、口封じしようとしたんだろう。
上級天使が犯人なら、そう捉えるのが一番自然だ」
リシェルは俺の言葉に、悔し気に眉をひそめた。
分かってはいるが、認めたくなかったという感じか。
『正義』を重んじる天使が、罪のない天使を狙った挙句、えん罪を疑うリシェルの命を狙ったんだしな。そうなるのも無理はないんだろう。
ああ、そうだ。
「その刺客の事なんだけど……あれは、術式で出された刺客だと思う」
「……えっ」
「お前が襲われたあと、俺なりに記憶の整理をして気付いたんだ。寮からお前の姿が見えた時は、後ろに影なんて付いてなかったって」
「えぇ!?じゃあ、途中から現れたってこと?」
「だな。俺の記憶だと……術式制限エリアを抜けたあたりから、ふっと影が現れたように見えた」
リシェルは、俺の言葉に目を大きくする。
寮の敷地内には、術式の使用を制限する結界が張られている。
術式を使う理由なんて日常じゃほとんどないし、それよりも余計なトラブルを防ぐ方が大事だってことで、学院が制限をかけているらしい。
「み、見間違いとかじゃないないよね?」
「ないと思うが……だとしても、あの影は生きている奴じゃなかった」
操っている誰かが、あの時すぐ傍にいたはず――
「なんでそんな事が分かるの?暗くてよく見えなかったのに」
そう聞かれて、『しまった』という文字が浮かぶ。
「……えっ。あー」
つい口が滑ってしまった。
不思議そうな碧い目が向き、俺は思わず目を逸らす。
「刺し返した時に、刺した感覚が酷く薄かったんだ。それに、血すら出てなかっただろ」
咄嗟にそれらしいことを口にすると、「確かに……」と納得したようだった。
俺は心の中でホッとため息をつく。
「とにかく、もしお前に危険が及ばなかったとしても、その方法だと上手くいくとは思えない」
「どうして?」
「本当に犯人なら、素直に真実なんて言うわけがない。巧妙に隠すに決まってる。
しかも相手は上級天使だ。立場も金もある。アリバイなんていくらでも用意できる。それを、俺ら素人がどうやって見破るっていうんだ?」
「そ、そうだよね……」
リシェルは手元のメモをぎゅっと握りしめ、視線を伏せたまま沈黙した。
その様子を見つめながら、俺は心の中であの事件の日のことを思い返し始めた。
事件があった頃、俺は他の悪魔の生徒たちと食堂へ向かうところだった。
外から聞こえる騒がしさに気付き、ふと窓の外を見ると、中庭のあたりに人だかりができているのが目に入った。
嫌な予感がして出向くと、前も同じ学校だった小柄な悪魔、ポルトが話しかけて来た。
「ダリウス!」
ポルトは、本来なら俺らが通うような学校に通える身分じゃないが、努力を重ね、知識と魔法の実力でここまでのし上がってきた珍しい悪魔だ。
昔は身分や小さな体のせいで虐められもしたが、俺と親しくなってからはそんなことはなくなった。
「なんの騒ぎだ?」
「それが、よく分からないんだ。検証班達が悪魔は絶対通るなって、通してくれなくて……」
「は?検証班?」
見ると、検証班の服を着た天使らが出口に光の壁を張り、立ち入りを制限していた。
そんな時――
「待ってください!」
リシェルの声が光の壁の奥にいる、天使たちの中から響いた。
目をやると、沢山の天使たちに囲まれながらも、怯まず立ち向かうリシェルの姿。
リシェルの足元には天使の生徒が倒れていて、検証班が魔法のようなものをかけていた。
――何が起きたんだ?




