ダリウスって何者!?3
「いや。とりあえず見つかると面倒だから、そろそろ出よう」
そう言ってパタンと本を閉じ、サッと元のあった場所に本をしまうダリウスは、どこか慌てているように見えた。
「うん……でも、もういいの?」
「ああ、もう確認は出来たから十分だ」
「そう?」
そう言って私が部屋の出口から出ようと向かうと、グイっと手を引っ張られた。
「な、何?」
「窓から出るぞ」
「えっ!?なんで!?」
「いいから」
ダリウスは、強引に私を抱き寄せると、窓を開け、部屋から飛び出した。
「き……」
思わず叫びそうになった時、書庫の出口が開くのが見えた。
その瞬間、私はドキッと胸が鳴る。
気付けば、ダリウスに守られるようにして木の陰へと身をひそめていた。
書庫の方向から、「あれ?窓が開いてる……。誰だ。最後に使ったのは」という男性の声とともに、ドアが閉められる音が聞こえた。
まさか、ダリウスは誰か来るのが分かって……
でも、足音とかしてたかしら?
あの部屋は防音性が高くて、外の音なんてほとんど聞こえなかったはずだけど……
「危なかったな」
そんな言葉に見上げると、目と鼻の先に美しく整った顔をした、ダリウスが映った。
書庫の鍵といい、誰か来る事を察知する能力といい、ダリウスは一体何者!?
…………
……
静かな教会に、ステンドグラス越しの柔らかな光が降り注いでいた。
その光の中で、私はひとり、祈りを捧げていた。
――本当は、ここに来るつもりなんてなかった。
でも、足が勝手に向かっていて……気づいた時には、ここにいた。
胸の奥に、どうしようもない痛みが残っていた。
それは誰にも言えない、小さな後悔の棘のよう。
あの時、もっと早くに引き留めていれば……
私に、あと少しでも迷いがなければ……
私は握り締めた手に、そっと力を込めた。
「……ごめんなさい」
ポツリと落ちたその言葉は、誰にも届かないまま、教会の静寂に吸い込まれていった。
けれど、胸の奥の痛みだけは、消えてはくれなかった。
ダリウス視点――
ある日の学院の中庭。
晴れた空の下、小鳥のさえずりが遠くに聞こえる。
わざわざ俺は人の少ない場所を選び、リシェルとベンチに腰掛けた。
リシェルは、白銀の髪を風に揺らしながら、それをそっと手で押さえた。
そして、ゆっくりと俺の方へ体を向けると、澄んだ碧い瞳でじっと見つめてくる。
まるで、俺が話し始めるのを待っているみたいに。
「……さて、これからどうする?」
リシェルは、少し強くうなずいた。
「あの本が正しいと分かった。だから私はやっぱり……真犯人を捜したい」
「どうやって」
「天使があの術を使ったのは、もう間違いないわ。
上級天使は、天使の中でも限られている。だから、その上級天使達が事件当日に何をしていたのか話を聞くっていうのはどう?」
「気持ちは分かるが、現実的じゃないな」
「えっ……?そうかな」
「上級天使は、天界の中でも重要なポストについている連中だろ?そんな奴らに一人ずつ会って話を聞くのか?何人いるんだよ」
「わ、分からないけど……1000人、もいないと思うけど……」
リシェルの言葉に、俺は心の中で大きなため息をつく。
「親族ならまだしも、そんなの会うだけでも一苦労だろ。天界は広いんだ。移動だけでも一苦労だし、1000人なんて聞き終わる頃には俺ら卒業してるかもしれないな」
「うっ、確かに……。じゃあ、天界の会議がある時に上級天使が集まるから、私が出向いて一気に話を聞いて行くとか……」
「お前……『話を聞きたいから会議が終わったけど帰らないでください!』とか言ってまわるのか?」
「そ……そこまではまだ分からないけど、でも、どうすれば一番いいのかを今から考えるんでしょ!?」
「そうだけど……でも、その方法には反対だな」
「なんで?」




