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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
忍び寄る影

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忍び寄る影2

 

 一瞬で血の気が引いた。



「大変っ!」




 …………


 ……



 私がかざす手の先からは、ぽうっと光る青白い光。



「はい。これで治ってるはずよ」

 そう言ってダリウスの腕にかざしていた手を引くと、すっと光が消えた。



 ダリウスは腕を軽く曲げたり伸ばしたりしてから、じっと自分の腕を見つめる。


「す……凄いな。もう痛みもない」

「当然よ。天使の治癒魔法は優秀なんだから」


 久しぶりに使った治癒魔法が成功した事に、内心ふぅっと息をつく。



 ダリウスは自分の腕をさすりながら、ぼそっと呟く。

「これが()の治癒魔法か……初めて受けた」


 その発言に、思わず顔を上げた。



「えっ?」


 そっか。悪魔は治癒魔法が使えないものね。

 治癒魔法の代わりに、悪魔は破壊魔法に特化してるのよね。


 その魔法の性質も、天使から恐れられてる原因なんだろうな。



「じゃあ、普段は傷が出来たらどうしてるの?」

「自然治癒だな。回復薬があれば使う事はあるが……」



 あまりにも普通のことのように言われ、私は言葉を失った。

 天界に、こんなにも優秀な治癒魔法を使える天使が沢山いるのに、悪魔はその治癒魔法を必要としてこなかったの?


 私なんて、小さい頃から少し転んでも、すぐに治癒されて来たわ。

 痛い思いなんて、記憶にないくらいなのに……



「……大変ね」

「そうか?そんなもんだろ」

 ダリウスは肩をすくめる。

 そんな様子に、なんとも言えない気持ちが胸の奥に広がった。


「って……思うけど、悪魔側が天使と仲を深めたい理由のうちの1つが、この治癒魔法らしい」

「え?」


「怪我をしないで生きるなんて難しい。生きていたら、大なり小なり怪我は付き物だ。だから、大きな怪我をして命を落とす悪魔も少なくはない」

 その言葉に、私は眉を寄せる。


「だが、天使の力があれば、そんな奴らを助けられる。それが目的のうちの1つらしい」

「そんなの、天界に来てくれたらいくらでも治すのに!」

 怪我なんかで死ぬなんて……放っておくわけないわ!



「そんな簡単には行かないだろ?お前みたいな奴ばかりじゃないんだ」

「なんでよ!?命がかかってるんでしょ!?それだったら誰も文句言うわけないわ!」


「……そうか?俺はそうは思えない」

「えっ……」

「初めて天界に来た時、すれ違った天使全員が俺らを化け物でも見るような目を向けてきた。道が分からず話しかけただけで、大慌てで逃げられた。あれが悪魔をよく知らない、天使の反応だ」


 私も、きっとそうしていただろう態度に、胸が痛くなった。



「天使からの偏見は思った以上に根深い。

 こんな状況で勝手に悪魔を治したら、その天使が非難を浴びるだろうな。……まぁ、ここの学院の1年生だけは非難はしないだろうけど」


 天使としての罪悪感を感じ、さっと視線を落とした。


「……でも、悪いのは天使だけじゃない。俺ら悪魔もだ」

 私はダリウスの言葉に顔を上げる。


「お互いに譲らず、相手を責め続け、さらにはキッチリと住み分けされて来た事でこんなにも溝が深くなってしまったんだと思う。けど、やっとそれも少しづつだけど改善はして来てる」

「改善?それはないでしょ。だって、この前の事件のせいで……」

「いいや。2歩進んで1歩戻ったという所だけど、進んではいる」

「うーん……」

 そうかな?


「俺らがこうやって話している事が、その証拠じゃないか?」

 そう言われてハッとした。


「確かに……」



「で……、話は戻るが、治癒魔法ってどんな酷い怪我でも治せるのか?」

「え?ううん。治癒魔法は万能じゃないから、治せるのと治せないのがあるわ」


 なんでそんなことを聞くんだろう。


「どこが悪いのか、どこを治すのかを、ある程度明確にイメージしないとあまり効果を発揮できないの。

 それに、傷が深ければ深いほど魔力も集中力がいるから、自分の傷が深いときに自分を治すのは不可能に近いらしいわ。そんなの体験したことがないけど」



「そうか……じゃあ、やっぱ、さっきのは危なかったんだな」


 あっ!それで……



 あの時ダリウスが助けてくれなかったら……


 目を閉じて想像してみると、浮かび上がってくるのは、腹部に血が滲み、痛みに耐えながらままならない治癒魔法を続け、力果てていく自分の姿。



 書庫だから朝までは誰も来ないだろう。

 そんな状態のまま朝までいたら、きっと――



 そんな想像にゾッとした。



「ダリウス」

「ん?」

「あ……ありがとう」

 ダリウスは、私の言葉に微かに目を大きくした。


「助けてくれなかったら……今頃……」

「だな。あの動き……下手すれば命を落としてた」

 彼は顎を上げて、いつもの調子でそう言った。


 うっ……

 本当にその通りだわ。



「でも、どうしてダリウスがこんな時間にこんな所に?」


「たまたまカーテンを閉めようと窓際に行ったら、お前が学院の方に行く姿が見えたんだよ」

「そうなんだ」


 この書庫や教室のある学院本館から見て、女子寮は奥。男子寮は手前だ。

 だから……



「こんな時間にどこ行くんだろうと思った時……」


 ダリウスの声がわずかに低くなった。


「お前の後を、つけてる奴が見えた」



 その一言で、背筋に冷たいものが走った。



 う、嘘っ……!?何それ。


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