忍び寄る影1
それからというもの私は、ますます躍起になって術式について調べた。
学院では、私に関する変な噂が流れてしまっている。
だからもう、思い切って割り切った。
私は通りすがりの天使に『あの日、怪しい姿を見なかったか』と声をかけ回った。
でも、悪い噂が流れているせいか、誰もまともに取り合ってはくれなかった。
検証班に、術式の間違いについて指摘しに行っても、終わった事だと追い返されてしまう始末。
でも――このままじゃ終われない!
誰も信じてくれないのは、証拠が足りないから。
旧式術式の本のことを言おうかと何度も思ったけど、あれだけだとまだ弱い。
それに、天帝も使うあの厳重な書庫から持ち出したことがバレたら、お父様の顔に泥を塗る事になってしまう。
そう思った私は、他の証拠を捜しに、夜の学院の書庫に忍び込んだ。
なぜ日中じゃなく夜なのかというと、それは、昼だと視線が刺さりすぎてとてもじゃないけど集中出来なかったからだ。
後ろ指を差されながらじゃ、本なんて読めるものじゃなかった。
私はロウソクの明かりを頼りに、本棚の間を歩く。
何度も手元のメモを見返しながら、手当たり次第に本を開いていった。
その時――
バサッ
書庫に、乾いた音が響いた。
私しかいないはずなのに。
勢いよく振り返る。
「誰!?」
次の瞬間、暗闇の中で何かが光った気がした。
そんな光景に、反射的に目を見開く。
すると、細く鋭い光の筋が瞳に映った。
刃物!?
一瞬でそう感じた。
けど、身を引く暇もない程の速さで、それは近づいて来た。
速い。近い。
避けられない――
「……っ!!」
思わず体が硬直した時……
「おい!!」
叫び声とともに、肩を強く引かれたような感覚が走った。
驚いて目を見開いた瞬間、鋭い刃が目前で弾かれた。
キン、と乾いた音が夜に響く。
刃は回転しながら勢いよく床を滑り、遠くの本棚で止まる。
さっき私が立っていた場所には、よく見えないけど黒い人影のようなものが倒れている。
私は震えながら、今にもその人影が動き出すのではと目を見張った。
けど、次の瞬間――
人影も刃物も、跡形もなく姿を消した。
「き……消えた?」
心臓が、痛いほど脈打っていた。
震える手が、服の裾を掴んで離せない。
「なんだよ。あいつは」
突然頭上から響いた低い声に、ハッとして見上げる。
すると目と鼻の先に、月明かりに照らされ浮かび上がる、ダリウスの顔があった。
私は思わず目を見開いた。
美しいルビーのような赤い瞳が、心配そうに私をじっと見下ろしている。
「……ダ、ダリウス……!?なんでここに……!?」
ダリウスは短く息を吐き、目線を落とした。
「それはこっちのセリフだ」
そんな返事を聞いた瞬間、ようやく自分の体勢に気がついた。
私は尻もちをついた体勢のまま、彼の腕の中にいた。
ダリウスは私を抱き寄せるように腕を回していて、私はその腕をしっかりと掴んでいた。
恥ずかしさで一瞬で飛び上がりそうになり、腕を避けた、その時――
「うっ……」
ダリウスが顔を歪めた。
驚いて彼が咄嗟に押さえた腕に目をやると、そこからは血が滲みだしていた。
まさか、さっきの人影に……!!




