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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
親友

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37/119

親友1

 次の休日――


 木漏れ日が差し込む学院のカフェテラス席で、私は親友のルミナと向かい合って座っていた。

 あえて生徒の少ない時間帯を選んだおかげで、テラスは貸し切り状態だった。


 ルミナは腰まであるアクアマリン色の髪を風になびかせる。

 カップの中の紅茶が、静かに揺れている。




「……なるほどね」


 ルミナはカップを静かに置くと、腕を組んだ。



「つまりリシェルは、この前の事件は『天使がやった可能性がある』って思ってるのね?」

「そうよ。あの書庫で見た術式が本当なら、ある程度確定しているようなものだと思うんだけど……」


 わずかに、眉が寄せられると、ルミナは苦笑いを浮かべた。


「考えすぎじゃない?」

「え?」


「確かに、リシェルの状況だと、その術式は天使のものかもしれないって思うかもしれない」

「うん」

「でも、記録が間違っている可能性だってあるでしょ?」


 親友は、再びゆっくりとカップを持ち上げる。



 記録が、間違ってる。確かに、それは私も疑っている。

 あの書庫にある記載自体が本当なのかどうかも……


 でも、天界の機密情報まであるあの書庫にあったものだからこそ、間違ってる可能性の方が低いはずだ。


「そうよ。でも……それと同じように、天使だという可能性もあるの」

 ルミナの顔がピクっと震え、目が鋭くなる。

 でも構わず続けた。ルミナには分かってほしくて。


「私だってこんな事思いたくない。今でも信じられない!

 でも、悪魔の術式には全て目を通したけど、全く同じ模様の術式は1つも無かった!なら、確実に記録のある天使の術式だったとみるのが自然でしょ?」


 親友は私の言葉を聞くと、ゆっくりとため息をついてカップを置いた。


「リシェル」

「な、なに?」


「ねぇ、本当にそんなこと言うつもり?じゃあ、天使が天使を襲った理由は何?」

「えっ……それは……」


「それだとまるで、悪魔を陥れるために、わざとやったみたいじゃない」

「もしあの記述が本物なんだったら、私は……」


 私が言うと、ルミナは言葉を遮るように叫んだ。


「ふざけたことを言わないで!!」


 カップがカランと揺れ、静まり返る。

「ふ、ふざけてなんか……っ!!」


「天使が、そんなことするわけないでしょ!」

 ルミナの目はみるみる吊り上がっていく。


「あなた、最近悪魔と仲良くしていたわね!」



 ダリウスのこと?

「だから何?」



「悪魔と関わるようになってから、頭がおかしくなったんじゃないの!?」

「……なっ!なんでそんな事言うの!?」

 ルミナの学年は共学じゃない。

 悪魔とは一切関わらず、悪魔のことをほとんど知らない。なのに、そんな酷いこと……っ!!



「私は事実を言ったまでよ!」

「悪魔と仲がいいとか悪いとか、今そんなの関係ないでしょ!」

「関係あるというのも分からないのね」


「どういう事よ!」

「そのままよ!」


「あの事件はおかしい事が多いわ!事件が起こる瞬間を見た者は誰もいないし、被害者だってまだ眠ったまま。なのに、大した証拠もないのに……あんな風に処刑されたのよ!?ルミナはなんとも思わないの!?」


 泣いて抵抗した挙句、この世から消されてしまった悪魔の事を思い出し、私は拳を強く握って続ける。


「処刑された彼だって、大切な家族がいると思うわ。それに、私達みたいな親友や友達がいたかもしれない。なのに、もし、えん罪だったら……っ!!」


 彼女は私を見て短いため息をつくと、目を伏せた。

「だから何?彼は悪魔よ?」


「……えっ?」


 ルミナはゆっくりと顔を上げる。

 その青い瞳には、どこか悲しげな色が宿っていた。


「そうね……、リシェル。あなた、昔から正義感が強いものね」

「……?」

 私はいきなり出てきた『正義感』という言葉に、眉を寄せてしまう。


「でも、そのせいで見誤ってるのよ。目の前で悲しいことが起こればかわいそうだと感じ、誰かが責められれば庇おうとする……。でも、それが本当に正しいの?」


「え……?」


「私たち天使は、絶対に揺らがない正義を貫く存在よ。嘘をつき、私たちをあざむく悪魔とは違うの」



「だから、それは……っ!」

「リシェル!」

 大きな声にビクッと体が震えた。



「もとはと言えば、悪魔が天使を狙ったのが悪いのよ。検証班がちゃんと調べた結果なの!

 なのにあなたは『かわいそう』だとか『本当に犯人なのか』とか……そんなことばかり考えている。今のあなたは、天使の正しさを見失ってるわ!」


「違う!悪魔が全部悪いとは限らない!相手がどんな種族であっても、正しく裁かれなきゃ意味ないわ!」



 彼女はゆっくりと立ち上がった。

 そんな様子を、私は静かに見守った。


「私たち天使は、正義を守るために生きている。悪魔は、その正義を乱す存在でしょ?それなのにあなたは、今、悪魔の見方をしている」



 悪魔の見方……?違う。

 だから私は、ただ……えん罪の可能性があると気づいてしまった以上、知らないふりなんてできないだけで……




 彼女は、まっすぐに私を射抜いた。


「リシェル。それはね、天使全体への――裏切り同然よ」



 その瞳は、私を敵だと告げていた。

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