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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
刻んだ誓い

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 翼の群れが嵐のように押し寄せ、一瞬で私たちは取り囲まれた。



 誰もが息をひそめたかのように、靴音が止む。

 床板の軋む音だけがやけに大きく響いた。




 そして――


「捕まえろ!」



 低く抑えた、鼻にかかった声。どこかで聞いたことがあると思った。



 でも、その声の主の姿を捜したり思い出したりするより先に、皆いっせいに飛び掛かってきた。

 肩を押さえつけられ、あっという間に拘束された。



 それでも、私たちは必死に抗った。

 でも、数が多すぎる。どう足掻いても逃げれはずがなかった。



「やだ! 離してよ!」

「リシェルに触るんじゃねぇ! 離せ!!」


 拘束を解くダリは、すぐに私に手を向ける。



「ダリ!!」

「リシェルーー!!」


 でも、そんな彼もどんどん小さくなっていった。



 声までも小さくなったと気付いた頃には、涙で前が見えなくなっていた。



「……うっ……」



 運命とは、なんて残酷なんだろう。



 こんな結末になるのなら、初めから出会わなければ良かったの?


 ……でも、出会えた喜び。

 共に過ごした時間。


 それは、紛れもなく存在した、かけがえのないものだった。




 悲痛な叫びと、伸ばされた手。

 それが……私の記憶に刻まれた彼の最後の姿だった。





 なぜなら――

 彼はその後すぐに、処刑されたのだから。




 その報告を、天界の牢屋の中で知った瞬間、世界が音を失った。


 足元が崩れ落ちるような感覚。

 呼吸さえ、ままならない。




 ――あの声も、あの温もりも。

 ――何もかも、この世から消えてしまった。



 そんなの、受け入れられない。

 信じられない。



 ただの悪い夢だと、何度も何度も思おうとした。


 でも、現実は冷酷だった。

 目の前は滲み、何も見えない。



 愛ゆえに私は世界に背いた。


 それが彼を死に追いやった。

 ……それは紛れもない事実。



「私のせい……私が……」


 喉の奥から掠れた声が漏れる。

 罪悪感が、呼吸すら苦痛に変える。


 でも、そんな時間も長くは続かなかった。



 すぐに、私の番が来たからだ。





 ガチャリ。


 牢屋の扉が軋む音とともに、外の光が差し込む。


「おい、出ろ」

 冷たい声とともに、腕を無理やり引かれた。

 その瞬間、強く拘束をされていたせいか感覚のなかった手首に痛みが走った。


「……っ!」




 あの日ぶりに外に出ると、嵐でもくるのかと思う程に、不気味な雲が空を覆っていた。


 肌に触れる風は、どこまでも冷たい。

 それは、世の中が私達にする仕打ちと同じようだと思った。


 そんな中、私は断罪の場へとロープで引かれる。




 ――終わるんだ。

 ここで、全部。



 断罪の場につくと、断罪官はすぐに私を見下し、冷たい声で言った。

「最後に何か言い残すことはあるか?」


 周りを見ると、見物客のような物珍しそうな天使達の目が沢山向いていた。


 好奇の視線。

 まるで、娯楽でも見るような瞳。



「こんなの……おかしいわ……っ! 私は……ただ、彼を愛しただけなのに!」


 自分の声が震えた。

 けど、その震えは恐怖ではなく、怒りだった。



「天使と悪魔が愛し合い、交われば『滅ぼしの子』が生まれる。お前はその恐れを無視した愚か者。

 よって、掟に背いたお前を断罪する」


「確かに私たちは愛し合っていた……。でも、それだけよ!

 決して……決して、禁忌を犯したわけじゃない!! なのに……」


 誇り高き天使としての気高さを保ちながら、涙を堪えて断罪官を見上げる。

 でも、そこにはただ『罪』と決めつける色だけがあった。



「どうして……ただ愛することさえ許されないの……?」


 胸が痛い。

 彼の笑顔、温もり、すべてが脳裏に浮かび、さらに痛みが増す。


「彼は……優しかった。誰かを傷つけることなんてしなかった……!

 なのに……どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないのよ!」



 そんな私の言葉に、シーンと静まり返る。

 やがて、その静けさを破るように誰かが鼻で笑った。


 でも、誰が笑ったのか分からない。



 見物客の無数の視線が、私を刺すように突き刺さる。

 断罪官はため息をつき、冷たい目で私を見下ろした。



「大人しく牢に入っているから反省でもしていると思っていたが……違ったようだな」

 断罪官は冷たく私を見下ろしていた。そこに慈悲の色は微塵もない。


「完全に悪魔に毒されているお前はもう天使ではない。……さっさとやれ!」


 その一言で、左右にいた天使たちが一斉に動き出す。

 視界が揺れ、まるで世界がスローモーションになったかのように感じた。



「やめてっ!」


 そう叫んだ瞬間、視界の片隅で、目元を覆い泣き崩れる母が映った。

 そして、その横では真っ赤な目をして必死に立つ父の姿。



 お父様、お母様……

 こんな醜い最期を見ないで……っ!!




 もう泣かないつもりだったのに、両親の姿を見た途端、どうにもならない涙が溢れてきた。





 そんな私を乱暴に掴む天使たちは、断罪の場へと押し込む。



「歪んでる! なんでこんな事ができるの!? 天使としての慈悲はどこにあるの!?」




 私――ここで本当に、終わるの?


 嘘でしょ……?




 嫌だっ……!!


 こんなの……絶対おかしい!!


 絶対に――っ!!




 涙が溢れて、視界は霞んでいく。



 そして――鋭い刃が落ちてきた。





 ザンッ!!

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