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そうして、私たちは抵抗するも、呆気なくすぐに捕まえられてしまった。
「やだ!離してよ!」
「リシェルに触るんじゃねぇ!離せ!!」
お互いに手を伸ばすも、どんどん引き離される。
「ダリ――!!」
「リシェル!!」
彼が小さくなったと思った頃には、涙で前が見えなくなっていた。
運命とは、なんて残酷なんだろう。
こんな結末になるのなら、初めから出会わなければ良かった……?
でも、出会えた喜び。
共に過ごした時間。
それは、紛れもなく存在した、かけがえのないものだった。
悲痛な叫びと、伸ばされた手。
それが……私の記憶に刻まれた彼の最後の姿だった。
なぜなら――
彼はその後すぐに、処刑されたのだから。
その報告を聞いた瞬間、世界が音を失った。
足元が崩れ落ちるような感覚。
呼吸さえ、ままならない。
――あの声も、あの温もりも。
――何もかも、この世から消えてしまった。
そんなの、受け入れられない。
信じられない。
ただの悪い夢だと、何度も何度も思おうとした。
でも、現実は冷酷だった。
目の前は滲み、何も見えない。
愛ゆえに私は世界に背いた。
それが彼を死に追いやった。
……それだけは、逃れられない事実。
「私のせい……私が……」
喉の奥から掠れた声が漏れる。
罪悪感が、呼吸すら苦痛に変える。
でも、そんな時間も長くは続かなかった。
すぐに、私の番が来たからだ。
ガチャリ。
牢屋の扉が軋む音とともに、外の光が差し込む。
「おい、出ろ」
冷たい声とともに、私は無理やり腕を引かれた。
外に出ると、嵐でもくるのかと思う程に、不気味な雲が空を覆っていた。
肌に触れる風は、どこまでも冷たい。
それは、世の中が私達にする仕打ちと同じようだと思った。
そんな中、私は断罪の場へとロープで引かれる。
――終わるんだ。
ここで、全部。
断罪の場につくと、断罪官はすぐに私を見下し、冷たい声で言った。
「最後に何か言い残すことはあるか?」
周りを見ると、見物客のような物珍しそうな天使達の目が沢山向いていた。
好奇の視線。
まるで、娯楽でも見るような瞳。
「こんなの……おかしいわ……っ!
私は……ただ、彼を愛しただけなのに!」
自分の声が震えた。
けど、その震えは恐怖ではなく、怒りだった。
「確かに私たちは互いを想い、寄り添い合った……。でも、それだけ。
決して……決して、禁忌を犯したわけじゃない!!」
誇り高き貴族天使としての気高さを保ちながら、涙を堪えた。
「どうして……どうして、ただ愛することさえ許されないの……?」
胸が痛い。
彼の笑顔、温もり、すべてが脳裏に浮かび、さらに痛みが増す。
「彼は……優しかった。誰かを傷つけることなんてしなかった……!
なのに……どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないのよ!」
そんな私の言葉に、シーンと静まり返る。
やがて、その静けさを破るように誰かが鼻で笑った。
でも、誰が笑ったのか分からない。
見物客の無数の視線が、私を刺すように突き刺さる。
断罪官はため息をつき、冷たい目で私を見下ろした。
「大人しく牢に入っているから反省でもしていると思っていたが……違ったようだな」
断罪官は冷たく私を見下ろしていた。そこに慈悲の色は微塵もない。
「反省も出来なくなったとは……もはや完全に悪魔に毒されているな。お前はもう天使ではない。……やれ!」
その一言で、天使たちが一斉に動き出す。
視界が揺れ、まるで世界がスローモーションになったかのように感じた。
「やめてっ!」
そう叫んだ瞬間、視界の片隅で、目元を覆い泣き崩れる母が映った。
そして、その横では真っ赤な目をして必死に立つ父の姿。
お父様、お母様……
こんな醜い最期を見ないで……っ
私の身体を乱暴に掴む天使たちは、断罪の場へと押し込む。
「歪んでる!なんでそんな顔できるの!?天使としての慈悲はどこにあるの!?」
――ここで、本当に……終わるの?
嘘でしょ……
こんなの……絶対おかしい!!
絶対に……っ!!
涙が溢れて、視界は霞んでいく。
そして――
ザンッ!!