真実への追及4
「だが、次に何かあったら……その時は何を言おうと関係ない。お前を学院から引き離す。その事を肝に銘じておきなさい」
そんな言葉が私の胸に刺さった。
「はい」
…………
……
学院が封鎖されている間、私はあの術式の正体を確かめるため、重要書類もある天界の資料室へと足を運んだ。
お父様が天帝セラフィエル様の補佐を務めている関係で『勉強のため』と特別に許可をもらって入らせてもらった。
次々と悪魔の術式の本を手に取り、パラパラとページをめくる。
でも……
「やっぱり、無い」
あの術式の形が。
ほぼ全ての術式を覚えているはずの私が、見たこともない形だった。
『やはり術式も悪魔のもので間違いなかった!』
処刑の時、検証班はそう断言していた。
検証側は、どの術式と判断したんだろう?
まさか、私が『似てるけど違う』と言った、悪魔の風魔法じゃないよね……?
「さすがにないわよね……」
処刑したくらいだし。
確たる証拠があって処刑したはず……
だと思うんだけど……
あの時の悪魔の様子を思い出すと、やっぱり不安になってしまう。
どんな術式か分かれば、本当にあの悪魔が犯人だったのかどうか、ハッキリすると思ったのに……
「はぁー」
でも、こうやって悪魔の術式の本を調べていても、やっぱり全く同じ術式なんて見つからない。
「なんで同じ術式が無いんだろう……?」
この資料室にない術式なんて、ないはずでしょ!?
やっぱりひっかかる……
術式の形以外に、ひっかかる事がいくつもある。
それは、術式が使われた『場所』と『時間』。
もし私が犯人の立場なら、わざわざあんな時間に術式を使わない。
術式は使った後、しばらく光の筋として地面に残る。
だから、誰にも見られたくないなら――
暗くなる前、つまり昼間に呼び出して術を使うのが一番自然なはず。夜中は人目が少ないけど、術式がハッキリと浮き上がってしまう。
それなのに、事件が起こったのは夕方だった。
しかも、人がたくさん通るわけじゃないけど、寮に帰るための帰宅ルートの一つでもある場所だった。そして帰宅時間から少しだけズレた時間。
それは、見つかってもおかしくない状況。
わざわざ少し目立つように仕組んだ?
なんて……考えすぎかしら?
今さら何かが分かったところで、万が一えん罪だと分かったところで、もうあの悪魔は戻ってこない。
でも、あの悪魔にだって家族はいるはず。
遺族が理不尽な罰を受けているかもしれない。
なにより、関係のない罪を押し付けられて処刑されたんだとすると、このままだとあの悪魔は報われない。
これは私のエゴかもしれない。
天使でも悪魔でも関係ない。
私の中の『正義』が、えん罪を許すことはできない!
真実が知りたい。
そして、もし真の犯人がいるのなら、本当の犯人に罪を償わせたい!
「これで、悪魔の使う術式は全部直したわ」
本をパタンと閉じて、眉を寄せた。
――結局、天界一の書庫を調べても、あの時見たものと同じ術式はどこにもなかった。
ふぅ、とため息をついて本を棚に戻したその時、ふと視線がその隣にある一冊へと吸い寄せられた。
それは、どこか他とは違う雰囲気を纏った本だった。
背表紙には古びた文字で「旧式術式」と書かれている。
「旧式……?」
私は少し首を傾げてから、吸い寄せられるようにその本を取り、埃を払ってページをめくった。
「……っ!!」
そこには、様々な理由で今では使われなくなった、天使や悪魔の術式が記録されていた。
初めて見る内容ばかりで、私は夢中になって読み進めた。
気がつけば、窓の外には夕焼け空が広がっていた。
そんな頃、あるページで手が止まった。
「えっ……」
そこに載っていた術式図を見た瞬間、息が止まりそうになった。
「こ……これ……」
息を呑む。
だって、そこに描かれていたのは――
「……嘘……っ!!」




