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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
刻んだ誓い

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「なんで今の今まで気付かなかったんだ! あれほどに頻繁に注意を払っていたのに!」


 私は、彼の言動に息を呑んだ。

 なぜなら、彼はごく一部の悪魔しか持たない『魔力を感じ取る能力』の持ち主だからだ。


 その能力に間違いはない。




 このままじゃ、捕まってしまう!


「早く! すぐ逃げなきゃ!」


 慌てて起き上がり、ソファ横に落ちていたショールを掴もうとする。

 でも、彼の手が私の腕を引き止めた。


「もう遅い」

 静かに首を振る彼に、血の気が引いた。


「じゃあ……、捕まるのを待てっていうの!? 捕まったらどうなるかも分からないのに!?」


 奥歯を噛みしめる彼を説得するように、私は彼の手を取った。



「だ、大丈夫よ! これまでもどうにか逃げて来たんだし、まだやれ……」


 彼の、ルビーのような赤い瞳が悲し気に光っている。


「さすがに無理だ……」


「えっ……?」

「今度は一人や二人じゃない。もう、取り囲まれてるんだ……っ!! 上級悪魔、そして上級の天使らに――」


「……っ!」


 その言葉に、言葉を失った。


 彼が、悔しそうに唇を噛みしめる。

 その唇からは血が滲み出していた。


「……終わりだ……」

「そんなっ!」

「国を……世界に背いてでも……ただお前と一緒に居たかった。

 お前の笑顔を傍で見ていたかった。そう思って選んだこの選択だった! なのに、どうして……これほどに叶わないんだ……っ!!」

 ダリは自分の顔を隠すように覆った。


「ダリ……」


 ダリの手を握り、震える指をそっと包む。


「……大丈夫だよ。もし、私達が離れ離れになっても……」

 自分の胸に、彼の手を重ねる。


「私たちは、また……きっと出会える……」


 そう呟いたけれど――

 それは自分に言い聞かせるためだったのかもしれない。



「ここに、私達の愛を刻まれている限り……」



 生まれ変わる保証なんて、どこにもない。


 それでも、そう信じなければ、心が折れてしまいそうだった。



 私たちの人生は、きっともう終わるんだろう。


 誰よりも聡明で、冷静な判断を下すダリ。

 長い間、ずっとともに逃げてきた。

 そんなダリが、初めて『無理だ』と言った。


 だから、今度ばかりは、もうどうしようもない状況なんだろう。




 でも――

 それでも、あなたを愛している。



 私は涙を流しながら笑顔を作った。



「ダリウス……大好きだよ」


 だって、あなたが初めて私の前で泣きそうな顔を見せたから。

 あなたが泣くなんて、嫌だった。


 あなたはいつも強くて、私を守ってくれた。

 でも今――


 震える唇を噛みしめ、涙をこらえようとしているあなたがいた。


 その姿に、胸が張り裂けそうなほどに締めつけられる。


 私はそっと手を伸ばし、震える彼を強く抱きしめた。

 温もりを感じたくて、離れたくなくて。


 でも、それだけじゃ足りなかった。

 涙をこらえながら、震える声で続けた。


「また……会いましょう。必ず……」




 その瞬間――


 バンッ!!

 勢いよくドアが弾け飛んだ。


「そこまでだ!! じっとしろ!!」


 ドアの向こうから、白と黒の翼が雪崩れ込んだ。

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