リシェルが見たもの1
「また遅くなっちゃった……」
調べものに夢中になると、どうしてこんなにも時間が過ぎるのが早いのかしら。
夕焼けが地面をオレンジ色に染め、風が木々を揺らす音だけが響いている。
辺りは人がまばらで、静かな空気が流れていた。
私は早く寮に戻ろうと、急ぎ足で中庭を横切っていた。
その時、ふと足が止まった。
視界の端で感じた違和感に、静かに目を向ける。
「……あれ?」
木のそばに、黒く焼け焦げたような跡がある。
落ち葉や影とは明らかに違う、不自然な黒。
私は、不思議な気持ちでゆっくりとそちらに近づいた。
目の前の光景に息を呑んだ。
そこには、衣服が乱れた天使の女生徒が、ぐったりとした様子で倒れていた――
「きゃああーーっ!!」
私の叫び声が、静まり返った学院に響き渡った。
鼻をつく焦げた匂いが漂ってきた。
よく見ると、彼女の周りには先ほど見えた焦げ跡が広がっている。
それはまるで、何かに襲われた跡のように見えた。
すぐに彼女の元へ駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
しゃがみ込んで声をかけてみるけど、彼女は全く反応を返してこなかった。
顔に生気がないけど、出血は見当たらないし目立った外傷もないように見える。
天使は簡単な治癒は出来るけど、万能ではない。
その道の専門の天使なら、一度に原因を見極め、同時に治癒を施すこともできるそうだけど……
普通の天使は、ある程度の原因が分からないと治癒は難しい。
私は急いで彼女の髪や服の端から端まで確認し、外傷を見落としていないか見ていく。でも、やっぱり見つからない。
何故こうなったのか分からない。
頭に手を当て、ふと足元に視線を落とした。
その時、不気味な光の線が目に飛び込んできた。
その線を辿るようにして辺りを見る。
その瞬間、背筋が凍りついた。
「……っ!」
淡く輝く線は、紋様だった。
その形は、見覚えのある形をしていた。
「……悪魔の術式?」
まさか、悪魔が――?
思わず、息をのんだ。




