手とり足とり2
目の前の景色が回転する。
慌てた私は、頭が真っ白になりながら、地面へと落ちていく恐怖に思わず目をぎゅっとつむった。
風を切る音が耳元で強くなる。
……怖いっ!!
「リシェル!」
遠くでダリウスの声がした気がした、そう思った次の瞬間、腕を強く引かれる衝撃が走った。
「……っ!!」
恐る恐るまぶたを開けると、すぐ目の前に、真剣な眼差しを向けるダリウスがいた。
彼の紅い瞳には、焦りと安堵が混じっていた。
そんなダリウスの表情だけで、私のために、必死に飛んできたことが分かった。
私は、背中に回された腕で、グッと抱き寄せられる。
「……ダ、ダリウス……」
そう彼の名を呟いた瞬間、ダリウスの腕がさらに強く締まった。
心臓の鼓動が近くで響いている気がする。
力強く支える腕の温もりが、肌越しに伝わる。
理解出来ない状況に、私は何度も瞬きをした。
こ、これは……ど、どういう事!?
今、一体何が起こってるの!?
「馬鹿」
そんな憎まれ口を叩かれたと思うと、私達はいつの間にか減速していた。
地面スレスレで停止すると、彼は私の肩を掴んで言った。
「大丈夫か?」
目の前には心配そうに見えるダリウスの赤い瞳があって、思わずギュっと眉が寄った。
また、その視線が私の胸の奥をざわつかせる。
怖かったのに、今はそれよりも心臓が騒がしい。
気付けば、身体が小さく震えていた。
「だ……だいじょう……ぶ……」
いつも私をからかってばかりのダリウスが、こんな風に助けてくれた。
そのことが、思ったよりも嬉しく感じた。
静かに地面に着地するなり、ホッとして足の力が抜け落ちた。
「きゃっ!」
「リシェル!」
ダリウスに、ぐいっと腰を引き寄せられる。
「あ……ありが……」
自然に出てきた感謝の言葉。
それを、ダリウスが遮った。
「本当、何から何まで世話の焼ける奴だな。落下中に何もしないで落下速度上げてどうするんだ?」
思わず顔が強ばる。
「うっ……」
そう言われてみれば、私は落ちている時、ただ目をつむっていただけかも……
パニックで、何も考えられなかった。
「しっかりしろよ。お前、その翼は飾りか?」
叱るような言葉に、ついカチンとなってしまう。
「……っ! う、うるさいわね!」
気付けば、私は顔を真っ赤にしながら叫んでいた。
「助けてやったのに、その態度かよ」
彼にため息をつかれる始末。
あんたが遮ったんでしょ!!
「おーい」
私達の元に、遠くから駆け寄ってくる講師の姿が見えた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
駆け付けた講師が、血相を変えた様子で私の姿を確認する。
「大丈夫です。彼が助けてくれたので」
「そうか。良かった」
そう話す私たちの間を割るように、ダリウスは口を開いた。
「前も思ったけど……やっぱ風の流れを読むのが苦手なんだな」
「えっ?」
思わず顔を上げる。
確かに、私は風の影響を受けやすい。
これでも、かなり飛べるようにはなったのに……まだまだだったようだ。
ダリウスは腕を組み、少し考えるように視線を向けると、ポツリと呟いた。




