忍び寄る影2
けど、柱の陰を覗き込んでも、そこには誰もいなかった。
「……気のせい?」
コツ、コツ……
遠ざかる足音が聞こえ、思わずそちらに目を向けた。
すると、建物の入り口に向かって歩く、長い白い髪の人物が視界に入った。
私は思わず駆け出した。
けど、次の瞬間――
目の前に大きな影が立ち塞がった。
「……っ!」
慌てて急ブレーキをかけ、顔を上げると、鋭い赤い瞳がこちらを見下ろしていた。
その赤は、彼の色のはずなのに――氷みたいに冷たかった。
薄暗い建物の中で見えてきた顔に、思わず息を呑んだ。
その人物は――ザハルク講師!!
彼は、悪魔専属の講師。
天使を酷く嫌っていることで知られ、天使と悪魔の共存共栄にも強く反対しているそう。
悪い噂も尽きない彼。
だから天使たちは、誰も近づこうとしない。
なのに……
いま私は、こんな人気のない時間に、そのザハルク講師と二人きり。
彼の針のような冷たく鋭い視線が刺さり、無意識に一歩後ずさった。
そんな私を見た瞬間、彼の目がさらに細められる。
でも、何も言わない。
それはそれで恐怖が増す。
すると、ザハルク講師は無言のまま、私の横を通り過ぎていく。
その冷たい空気を残しながら、やがて足音は遠ざかり、完全に消えた。
気がつけば壁に背を預けていた。
「……ふぅ……」
……今のは、なんだったんだろう?
見えたのは白い髪だったように見えた。
なのに、そこにいたのはザハルク講師……
白い髪は、見間違いだった……?
…………
……
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