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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
思い出せないメロディ

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10/120

思い出せないメロディ1

 黒板には大きく書かれている。


『禁律第五号:天魔混生の禁』



「混生とあるが、今力を入れている共存共栄の話ではない。

 天使と悪魔が交わる、すなわち子を宿すという意味だ。

 周知のことではあるが、一万年前、天使と悪魔の間に生まれた混血児によって世界は破滅の危機に瀕した。

 その影響は人間界にまで及び、肥沃な大地は瞬く間に荒廃したと記録にある。以後、天界と魔界は手を組み、この禁律を定めた。それが始まりで……」


 講師の声が淡々と続く中、前の席では真面目に羽ペンを走らせる者もいれば、後ろでは小さくあくびを隠す者もいる。

 皆が知っている話だからこそ、気に留めない者が多いようだ。



 こんな子供でも知ってるような話を掘り出すのは、きっと初の天使と悪魔との共学初日だからだろう。


 禁律を破る者なんて、いるわけないのに。



 その時、つい誰かのあくびがうつってしまった。

「ふわぁ……」



 すると――

「ふっ……」


 小さな笑い声が聞こえた。

 その方向は、どう考えてもダリウス・ヴァルシオンのいる方向。


 思わず顔を向けると、即座に馬鹿にしたように笑う彼とバチっと目があった。

 その瞬間、カッと顔が熱くなった。


 私から首席の座を奪った彼に笑われた事。

 その事に我慢が出来ないほどに腹が立ち、怒鳴りそうになったのをなんとか我慢をする。

 そしてめいいっぱい睨んだ。




 キーンコーンカーンコーン。



 講師が本を閉じると、「今日はここまで」と言って教室から出て行った。



 …………


 ……



「だから言ったでしょ!? 悪魔なんかと分かり合えるはずがないって!」


 学院の廊下で、思わず叫んでしまった。

 目の前には、挑発的な笑みを浮かべる、あの首席入学の悪魔、ダリウス・ヴァルシオン。


 何かと絡んでくるし、いちいち私の言葉を否定してくる。

 しかも、妙に冷静で、まるで私の反応を楽しんでいるみたいに思う。


 くっきりとした顔立ち、鋭く綺麗な瞳、整った顔――それがまたムカつく!



「お前こそ、天使がすべて正しいとでも思ってるのか?」

「当然でしょう!?」


「はっ、傲慢な天使様だこと」

「なんですって!? あなたたち悪魔こそ、自分たちの利益ばかり考えてるくせに!」


「それはお前らだって一緒だろ?」

「何言ってるの? そんなわけないでしょ!」


「自覚ねぇなんて大罪だな」

 余裕たっぷりで、見下すような視線。

 ムカツク……っ!


「どういうことよ!」


「そのまんまだよ。天使ってのは、自分が正しいと思い込んで、何も見えなくなる生き物か?」

 彼が不敵な笑みを浮かべながら、こちらを覗き込む。

 その瞬間、怒りがこみ上げる。


「……っ! あなたと話すだけ無駄だわ!」

 そう言い捨てて、くるりと背を向けた。

 足早に廊下を進み、教室へ向かう。



 あー……

 あの悪魔と言い合いをしてしまった。


 入学してからこれで何度目だろう。



 天帝や魔王の補佐を育成するための『統治学科』。

 彼は悪魔の貴族の中でも、最も高い家柄らしいから、同じクラスになるのは必然だったんだろう。



 でも……隣の席なのは、あまりにも不運すぎるわ!



 教室へ戻ると、すでに何人かの生徒が席につき始めていた。

 苛立ちを押さえながら、自分も席に座る。


 次々と生徒が戻ってきて、教室内が少しずつざわめいていく。


 こういう時、だいたい悪魔は遅い。


 その中で、ひときわ目立つ足音が聞こえた。

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