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「レオン、がんばれー!」
エレナの声援が、特設観覧席に響いた。
今日は、剣技大会の参加者を決めるための試合だ。
年に一度のこの大会は、デクラーの騎士見習いたちが日ごろの鍛錬の成果を見せる晴れ舞台。
みんな、この大会に進出するために、コンディションを整えてくる。
見事な剣さばき、俊敏な動き、交差する気迫と技。
エレナの目には、それらすべてがきらきらと輝いて見えた。
「……すごい。あんなにかっこいいなんて……」
ぽつりとこぼしたその言葉は、決して恋心からではなかった。
ただの尊敬と憧れ。
でも、他人から見れば、それは違って見える。
「ふーん。レオンのこと、そんなに好きなんだ?」
「えっ!?そ、そんなことないよ!?」
隣にいた少女がクスクスと笑った。
「エレナにはルイがいるのに、ね?」
「エミリエ……!」
ヒロイン――エミリエ・ブランシュ。
彼女は今、サロンの同僚でもあり、最近では何かとエレナに話しかけてくるようになっていた。
「レオンって、普段無口だけど、エレナと話すときだけちょっと雰囲気違うもんね。」
「ちがっ、たまたまだよ!レオンは誰に対してもああいう人で……!」
「ふーん……でも、ルイはちょっと不機嫌そうだったけど?」
「……え?」
振り返ると、少し離れた立ち見席で、ルイが無表情に立っていた。
気づけば、視線が合う。
でも、彼はすぐに視線を逸らして、背を向けた。
「……もう、わけわかんない。」
あの日以来、ルイはやたら“普通”を演じていた。
笑って、からかって、でも本音には踏み込まない。
私もきっと、そう。
何も言えずに、ただ表面上の笑顔でやり過ごしてる。
(……期待するからいけないのよ。どんなに冷たくしても来て欲しいなんて、私、自分勝手すぎる。)
思ったよりも、その考えは自分の胸に重く響いた。
「なぁ、ルイ。」
「……ん。」
大会の参加者が決まった後、クラスメイトでもあり、本国の王子であるマティアスがルイに声をかけた。
「お前、あの子のこと、好きなんだろ?」
「……は?」
「エレナだよ。顔に書いてあるぞ? “気になってます!”って。」
「……うるせぇ。」
ルイは不機嫌に唇を噛んだ。
そう言い返しながらも、無意識に視線がエレナを探してしまう自分が、余計に腹立たしかった
周囲がざわつきはじめているのは気づいていた。
エレナが誰かと話していれば、視線が集まる。
レオンと話せば、“もしかして”と囁かれる。
笑えば、噂され、沈黙すれば勘繰られる。
エレナ本人は気づいていないが、エレナはクラスでもサロンでも実績があり、それでいて愛嬌のある子だと評価されている。
(なんなんだよ……)
彼女は、元々“俺の隣”にいた存在だった。
騒がしくて、笑顔で、遠慮なんて知らなくて。
なのに今は、手の届かない場所にいる気がして仕方なかった。
「……ったく、めんどくせぇ。」
自分の感情に名前をつけるのが、こんなに苦しいなんて、知らなかった。
その夜。
エレナは、自室の机で文化祭のアンケート集計を眺めながらぼんやりしていた。
(私……本当は、どうしたいんだろう。)
ルイと元の仲に戻りたい。
昔みたいに、バカみたいにくだらない話をして、一緒に笑いたい。
でも、彼の隣にはヒロインがいる運命だ。
運命が、シナリオが、彼を連れていってしまう。
(叶わない恋を、叶わないってわかってて、それでも関係を続けようとするだなんて、バカみたい。)
ふと、机の端に置かれた小さな宝箱に目が留まる。
中に入っているのは、例のヘアアクセサリー。
子どもっぽいデザインだけど、今でも一番大切な宝物だった。
(……つけたら、戻れるのかな。あの頃に。)
そう思って、ヘアアクセサリーを手に取ってみた。
小さな宝石を模した石が指先に冷たく触れて、胸がちくりと痛む。
首を振って、そっと、ヘアアクセサリーをしまって、また蓋を閉じた。
ほんの一瞬、あの頃の自分に戻れたらどれだけ幸せかと思ったけど――
「戻っちゃ、いけない気がする。」
息が詰まるように胸がきしんで、ふっと息を吐く。
叶わないと分かっているくせに、また夢を見てしまう。心が勝手に期待してしまう。
恋をするって、思ったよりも、ずっと苦しい。
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